私は実は、ベルリンで、ベルリン美術大学(Universitaet der Kuenste)の学生でもあります(2005年まで)。
日本で大学生を4年やって、学科もかなり色々取っていたのでこちらでは、アトリエをもらって制作、たまに気になる授業に顔を出す、という感じではあるのですが。
今回は、私のいた日本の美術大学とはまた違ったしくみを持つ大学をちょっとご紹介したいと思います。

 こちらでは春ゼメスター(学期)は4月の8日から始まりましたが、教授達の中には5月から授業を始める人もいるうえ、製作は個人の自由、人それぞれなので、 まだ構内はがらんとしています。さて、授業こそ始まっていないのですが、 お金が無くて有名なドイツの首都ベルリン(!)では、 大学内でも経費削減のための動きが着々と始まっていました。
そのひとつとして今学期から始まったのが、夜は11時以降は学校全体を閉め切る、という試み。
以前は、夜警さんが居て、見回りの人も居て、嬉しい
24時間オープン!! だったのですが。
これは、日曜日はすべての店屋が閉まってしまい、夜8時以降開いているのはレストランとカフェだけというドイツではすごいことですが、学生の権利として、今まで認められて来たことなのです。
11時に全館閉鎖! の警告貼紙を見て、夜行性で、夜警さんとも仲良しの私は大ショック。
ドイツでは夜10時以降は住居で騒音をたてては行けないという法律があり、守らないと訴えられることもあるくらいなのですが、(私も、ドアの開け閉めがうるさい、と注意の手紙を書かれたことがあります。 窓が汚れてるので掃除するように、と書かれたことも。) 大学は広いので、夜中まで音楽をがんがん鳴らそうと、わいわい騒いでパーティをしたり、ディスカッションをしようとお構い無しでした。
が、しかし、それも今学期からはおしまいになってしまうのでしょうか!?
これについての大学側からの通告は全く無かったので仲良しの夜警さんが、『俺は4月15日から正式に失業だ』と言ってた時には『何を言っているのだろう?』 疑問に思ったのですが、特に気に止めませんでした。
しかし、今週から大学に来た、夜行性の学生達を中心にこの情報が広まり、その中から学校のホールの一部に立てこもって、デモをやりはじめる人たちが現れました。
展示用の壁を集めて部屋を作り、そこら中ににプラカードを立て、 天井から長い訴状をぶら下げ、音楽を流し、生徒を捕まえては、呼び掛けています。私ももちろん24時間オープン擁護派なので署名をしました。

大学の入口でデモ準備をしている人。NONSTOPという大きな垂れ幕がかかっている
大学入り口周辺のデモ、
垂れ幕などの様子






アトリエの様子。手前にひっくりかえった自転車、後には高い棚、ごちゃごちゃ素材がある
ドイツの大学は教授に“弟子入り”する形が未だに残っているので、入学し、半年基礎をやった後は、気になる教授の所に自分の作品ファイルを持ってコンセプトを説明しあなたのクラスに入れて!とプレゼンテーションしにいきます。クラスによって生徒数もアトリエの大きさも、機材も、授業の方針も様々。
例えば、大御所(?)のポリティカルなテーマ、コンセプトを扱うアーティスト、カタリナ・ジーフェアディングのクラスには、なんとコンセプトのみを助言するアシスタントが居るとか!!以前はKW(クンストベルケ、ベルリンの美術団体)のディレクター、クラウス・ビーゼンバッハがそのお役目だったらしいです。
そういうクラスあり、黙々と石を彫り、油絵を描くクラスあり。そういうクラスは生徒がアトリエにぎゅうぎゅうですが、うちのクラスのアトリエはこんな感じです。写真やビデオをやる生徒が多いので、わりと広くスペースが開いているので20帖くらいで広々制作。

 大学側の突然の措置に憤慨した私がお勤めをしている友だちに『24時間オープンじゃないなんて、自由な創作意欲の24時間フル稼働の妨げになる!!』と演説をぶったところ、『24時間って言ってるけど、でも君は夜9時に行って夜12時まで制作しているでしょ、12時間繰り上げられないの?まったく、学生さんだな〜』と言われてしまいました。 うーん、それも正論。私の主張は、他人を説得するだけの力は無いようですが、デモを行い、24時間オープンを大学側に認めさせようとする人たちの主張なら、納得するだけの理由づけをしているだろう、と思って、ちょっと尋ねてみました。
すると・・・『建築科の学生の多くは自分のPCをクラスで使用、接続している。メールをチェックするのに開いて無いと困る』・・・そ、それはプライベートな理由では・・他には??『夜の方が気持がのる』・・私もそうだけどね・・・。こんなんで大学が24時間オープンを再認可してくれるのか?しかし、デモも盛上がってきて、今年やはり資金繰りのため閉鎖になる版画研究室による、版画講座(24時より)や、ビデオクラスによる映画観賞(24時より)、ビデオ編集講座(23時より)などが自主的に始められ、デモに参加した生徒達も、様々な講座を設置、担当し、パーティやディスカッションが毎夜行われ、夜の学食までが自主で始められました。ハンガリーから来た学生によるグラーシュ(ハンガリーのパプリカと肉煮込みシチュー)など、日替わりで美味しい手作りの味が学生ホールでカセットコンロを使って作られ、その味はまた格別でした!!
これが自由のための一致団結、抵抗の味??
実のところ、私はこんな活動が本当に大学側を説得できるのか疑っていたのです。1年で400以上ものデモ活動が行われているというデモ好きの街、ベルリンの事だから、また始まったよ、くらいに思っていました。
しかし、結果、このデモは実り、無事24時間365日オープンが決定しました。そしてデモは解散、美味しかった夜の学食は店じまいとなりました。
今でも夜中、学校に残っていると時々食べたくなります。ちなみに大学のカフェテリアと、隣のベルリン工科大学の学食はまずいうえ、5時には店じまいとなってしまうのでした。がっかり。

(この文章は2002年春、ドームHPのために書かれた文章を加筆、写真を加えたものです。)

Universitaet der Kuenste: S/U2,9 Zoologischergarten ----- Hadenberg strasse




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