ケルンで行われているアートメッセ 、ART-Cologneにはギャラリーのスタンドだけでなく、いくつか選ばれたギャラリーがイチオシの若手アーティストの特設コーナーがありました。今回は若手アーティスト市場について書いてみようと思います。
若手アーティストの作品売買。これについて客観的に語ることは非常に難しそうです。なぜなら私自身も発展途上の若手アーティストであり、売れる売れない、そして才能があるのか、続けていけるのか、いつも考えている、いや悩んでいるからです。
今回のアートメッセの若手コーナーには絵画が非常に多く見られました。ビデオ作品が1つ、インスタレーション作品が2つ。後はほとんど絵画です。『ヤング・アーティスト』特設スタンド以外にも若手の作品は多く展示されていましたが、それも絵画がほとんどでした。インスタレーションといっても絵画のような印象を与える作品も。(下写真)プラスチック素材で作られた影絵のような作品は奇妙な幾何学の世界が構築されているスケッチを見ると、ちょっと面白い考え方をして作っている様で、他の作品も見たくなりました。しかし多くの絵画作品が、えっ、これわざわざ“ヤング”特設にして展示するようなもの?と疑問に思うようなものだったのは残念でした。
普通のスタンドにコンセプトとしては新しいわけではないけれどちょっと良い若手の作品、というのであればけっこう見かけたのに、わざわざ“ヤング”コーナーを作ってそういうのを並べなくても、と思ったのです。

今、日本では若手のペインティングが多く見られます。 ドイツ(ヨーロッパ)も同様なのですが、日本のペインティングの多くがスカッと抜ける様な空間をキャンバスの中に展開し、 色合わせも独特で見てて心地よいのに対し、ドイツの絵画はどうも無駄が多く、うるさく感じます。私はこれを『日本画のように描かない場所に空気と空間を創り出す力、 それをみることのできる目を日本人は持っている』からではないか、と思っています。独特の平面上での空間表現センスが日本人にはそなわっているのではないかと。
対してドイツ人はどうも力を抜くと言うことを知らないと言うか、コンセプトが先走って周りがみえなくなっているというか、絵全体が固く、色がギッチリ塗られ空間が息苦しい絵が多いように思います。


私にはさっぱり良さが伝わってこなかった若手作品。
ライプツィッヒのギャラリーからの出品。

ベルリンのプロジェクトスペースFutur7の出品。
ちょっとだけ気になるけれど・・
スペースは面白い場所です。
しかし日本人の絵はセンスが先走り、描き続けるのが辛くなってしまうことも多そうですが、ドイツ人はその点、コンセプトで描くのでしつこく展開を続け、最後に面白い所に辿り着くこともあると思います。これは、絵画だけでなくアート作品すべてに言える事ですが・・。
ドイツに来て、美術大学に入り発展途中の作品を見、作品についてディスカッションを頻繁にするようになって、日本とドイツのアートの展開について上のような意見を持つようになりました。
なんにせよ、今回のメッセにあったドイツ若手絵画はうーん・・という感じでした。新しい展開も、人を引き込む空間も、はっきりと目にみえるコンセプトも、残念ながらあまり感じなかったのです。売れ行きはどうだったのでしょうか?気になるところです。

売れ行きと言えば、ベルリンに帰って来て韓国人の友人と話していた時のこと。
『大学を卒業したばかりのバゼリッツ(ドイツの著名な画家)クラスの韓国人の子の作品がおっそろしく売れまくったの知ってる??バゼリッツの後押しでベルリンでも有名な権力のあるギャラリーに入って、韓国紙の上に着物みたいのを着た男女を描いたのを沢山発表したんだけれど、それがベルリンでも、ケルンでも完売だって。そのギャラリーに入ればどんなモノでも売れるらしい。アート界のシステムってそんなものなのかなあ・・・』なんて話が出ました。
そんな悲観したものではないにしろ、多かれ少なかれどの世界でもそういうことはあると私は思います。また、メッセではアートが売買される場で、買う側も、もちろん気に入った物を買うのでしょうが、投機として買う人もいるわけで、そういう場合これから値段が確実に上がりそうなのを買いたい、もしくは価値がそれなりに定まっている、有力なバックがついている、モノを買うのはしょうがないとも思えます。

メッセ会場2階では、老舗のギャラリーが
価値の定まった有名な作家を多く並べていました。
私にとって新しい展開や面白いモノは
あまり見当たらないのですが
莫大なお金が動いている場所でもあります。
ただ、そういう風に展開するアートもあり、またそうでないアートもある。また、同じ物がある人にはアートとしての価値があり、ある人にはない、ということなどざらにあります(逆も)。
『誰もがアーティストになることができる』と言ったのはドイツの現代アーティスト、ヨーゼフ・ボイスですが、『すべてのモノがアートである』というわけではありません。その境界は人それぞれで、私にとっては『私に何か語るところがあるモノ』がアートです。メッセのようにごちゃごちゃと並べられた会場で、作品が語る言葉に耳をすますのは至難の技。しかしすっと目がいく作品というのはそういう中にもあり、それを自分のモノにしたいのか、それとも美術館みたいなところでガーンと見たいか、が売れる売れないをわけると考える事もできます。
アーティストも霞を食べて生きていくわけにも行かないわけですが、自分に語りかけない作品を自分で作るくらいなら、作らないほうがまし。それが認められ、なんらかの形でお金を生むならば喜ばしいし、そうでないならば、なんとか自分なりの道を探して行かなければなりません。・・・なんてことを考えたメッセ『ヤング・アーティスト』巡りでした。




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