そこら中が工事中の街、ベルリン。
歴史的な建物の隣に、総ガラス張りのモダンで巨大なビルがそびえ、築100年以上の石炭暖房のアパートをペパーミントグリーンとピンクに塗り直しているかと思うと、ぼろぼろの防空壕や旧金物工場が全く直さない状態で展覧会会場やクラブに使われていたり、突然巨大な壁画が現れたり、ただぼんやり歩いているだけでも面白い建築、パブリックアート散歩ができてしまいます。
しかし、秘密のような細い小道や中庭に入って、さらに自転車置き場を分け入らないと見つからないような作品があったりもするので、私はたまに地図を片手にベルリンにある建築や、モニュメントを見て歩くお散歩ツアーをします。

今日は、工事現場のメッカ、ベルリン中央駅と名を変え、これからベルリンの中心になっていく(と、予想され、開発中の)レアターシュタッド駅の次の駅、フリードリッヒシュトラーセ駅周辺へ。この駅回りは、近頃完成したガラス張りのオフィスビルにともない、ベルリンに最近増えつつあるスターバックスや、オーストラリアから来たアイスクリーム屋、チェーンのパン屋などが進出し、ペカペカした安っぽい雰囲気ですが、さらに5分ほど歩くと、ウンター・デン・リンデンという大通りに出ます。名前は変わりますが、西は長く『ベルリン天使の歌』で有名な天使のいる戦勝記念塔から、東はTV塔のあるアレクサンダー・プラッツまで、ブランデンブルグ門を抜けて続く通りで、もともとは王宮から狩り場であったティアガルテンを結ぶ並木道だったとか。東西統一前は旧東ドイツの大通りだったこの通りにはロシア、ポーランド、ハンガリーなどの各国大使館があり、また、DG銀行、国立図書館、ドイツ・グッゲンハイム美術館、オペラ座、ベルリン大聖堂、国立図書館、ドイツ銀行、アルテス・ムゼウム(旧博物館)など建築も、美術も見どころが並んでいます。
その通りからちょっと入った所にある、石畳に昔風の街灯がともり、ドイツ大聖堂とフランス大聖堂という美しい2つの聖堂を浮かび上がらせる、 ジャンダンメン広場や、 ポップな色に塗りわけられたイギリス大使館を見て、 ベルリン国立歌劇場へ向かう途中ベーベル広場という広場にたちよりました。

Berlin Hbf
(中央駅)の様子。
後ろに小さく見えるのが
連邦議会の建物

暗闇の床に浮かび上がるガラス窓からインスタレーションを覗く子どもbebelplatz の
インスタレーションを
覗き込む子ども。
彼女の目には
何がうつったのだろう。
 1933年、5月10日。 1933年1月にヒットラーがドイツで政権把握をし、 反体制的な物、もちろん美術も、徹底的に潰しにかかったわけですが、 ここ、ベーベル広場の中央でも、非ドイツ的、とみなされた作家による 文学書、哲学書、歴史文書など、約2万冊が燃やされました。それを忘れないために作られた、イスラエルのアーティスト、ミハ・ウルマンによるインスタレーションが、 この広場のまん中に設置されています。
私が訪れた時はもう、すでにあたりは暗くなっていて、街灯もない、暗い広場のまん中がぼうっと明るく見え、 なにやら、幻想的なような、恐いような雰囲気。近付いてみると、広場の石畳の中央の地面に 1.2m四方ののぞき窓がはめ込まれていました。 その窓から地下を覗き込むと、下に白く、からっぽな図書館が 作られているのが、下からの強い光に照らし出され、見えその、空虚な感じに胸をうたれました。そこにおさめられるはずだった、しかし、灰となってしまった 2万册の本。
焚書の光景が目に浮かびましたが、その、残虐な行いの獣の匂いのするようなイメージとは対照的に、 白くて、簡素な本棚は、その簡素さゆえに逆に、ふみにじられた思いをひしひしと伝えてくれました。 このインスタレーションは本当にすごかった。

こちらではまた、ユダヤ教の教会が襲撃されたりトルコ人の家族が放火にあったりなど、減ったとは言え、まだネオナの暴挙がみられます。先日行われたネオナチのデモの様子を見ても、未だに一部の人達が外国人排除を望んでいるのが分かります。それはほんの一部であるのは分っているし、大抵のドイツ人は外国人や他国の文化に対してオープンで、あると感じていているのですが、やはり、外国人としてドイツに住んでいるので、恐くなる時があります。多分こんな気持で見るこのインスタレーションは、何か自分の気持や境遇と重ね、より強く言葉を発してくる気がしました。

(この文章は2000年秋、mienai-tenMLのために書かれた文章を加筆、写真を加えたものです。)

**2004年夏から、残念ながらこの焚書広場のインスタレーションのある場所には巨大な地下駐車場が建設されることになり、大規模に掘り返して工事を行っています。このインスタレーションの行方は、いったいどうなってしまうのだろうか。パブリックアートの行く末についてちょっと考えてしまった出来事です。

Bebelplatz: S Bahn Unter den Linden/ Bus 100 等 ----- Deutsche Oper 隣



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