ベルリンには、気をつけているとそこら中にシナゴーグ、ユダヤ図書館や本屋、ユダヤ食材のお店があります。 先日ユダヤカフェに行ってみたのですが、カフェの奥に保育所が併設されており、その部屋は天井からユダヤの星の飾りがさがり、 窓もユダヤの星でデコレーションされていてなんだか壮絶な眺めでした。そのカフェでは、ドイツユダヤ新聞が読めます。 それらの店や、特にシナゴーグは常にネオナチによる脅迫を受けており、門の前には機関銃を携帯した警官が立っていて24時間警備に当たっています。 |
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さて、シナゴーグ等の他、ベルリンには、ユダヤ人による虐殺の跡を残すインスタレーションや記念碑、墓碑なども沢山存在します。 ベルリン最大の高級デパート、KDW(Kaufhaus des Westens、西のデパートの意)の前にもユダヤ人が虐殺された場所を書いた巨大な看板が立ち、 『VERGESST DAS NIE(これを決して忘れるな)』と書き込まれています。 この『VERGESST DAS NIE』は、ありとあらゆるユダヤ関係の碑に書き込まれており、大文字の具合にユダヤ人の決意と抑えた激情を感じます。 さて、このような激しい思いを感じる記念碑と違い、静かに、虐殺の歴史を訴えかけるインスタレーションが存在します。 それが、クリスチャン・ボルタンスキーによる、失われた建物のインスタレーションです。 |
クリスチャン・ボルタンスキーはフランスの記憶をテーマとして扱うアーティスト。 初期作品では鮮烈なショートフィルムも作っています。(昔、東京の日独センターで見ました。うなされました。) 彼のインスタレーションはしばしば、戦争中に虐殺された人達、特にユダヤ人の写真や名前、戸籍などを使って作られています。 多くがブリキの箱や小さなライトを使って作られていますが、彼の作品に特徴的なのは、その、作品の醸し出す雰囲気です。 虐殺という重くのしかかる歴史を、粘着質でなく、恨みがましくも無く表現し、ただ、喪失感だけがそこにあります。 ベルリンの繁華街、ミッテ、ハーケッシャーマルクト駅から、街娼のお姉さん達が立ち並ぶOranienburger Str.(オランニエンブルグ通り)を行き、 ちょっと入った小道に、このインスタレーションは佇んでいます。これは、この場所に以前住んでいて、ナチスによって捕らえられ、 虐殺された人達の名前が、ビルの壁にとつけられている、という作品です。 多分以前は一つであったアパートの真中がぽっかりと取りはずされ、その壊れたレンガの壁部分は、 みた時に、何か、人の骨、背骨を思わせます。このインスタレーションを初めてみたのは、 たまたま近くのベトナムレストランに入った時でした。アパート自体、道からちょっと入った所にあるので見つけにくいと思います。 しかし、ふと目に止まった時に受ける印象は密やかながら鋭いものでした。この名前のプレートが無くても、 多分、この、『何かがあった跡』の白い壁をみるだけでも訴えるものがあったかもしれません。 |
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そのアパートの前には、ユダヤ言葉でかかれた絵本や(もじゃもじゃペーターなど、ドイツものが多いです)、ユダヤの燭台やワインなどを片隅に置いた素敵な玩具と童話のお店があります。ここの玩具の品揃えはセンスが良くてお薦めです。その他、この店は“碁”の同好会も開いている様です。お店の主人である笑顔の優しいおじさんはユダヤ人で、ユダヤ言葉、ユダヤの習慣などに親しんでもらおうと考えているそうで、色々な質問に親切に答えてくれます。そして、その店の横の公園には『VERGESST ES NIE』の墓碑が。虐殺の跡を、密やかに伝え、残すインスタレーション、ユダヤの歴史や文化を親しみを持って伝えようとする玩具、童話屋さん、『絶対に忘れるな』と激しく誓う墓碑。この通りを歩くと、ユダヤ人の虐殺に対する思い、これからの生き方、彼等の入り交じる思いを見る気がします。 |
Boltanski Installation:S Bahn Hackeschermarkt ----- Grosse Hamburgerstrasse.
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