先日ハンブルクに行ってきました。ハンブルクに行くと必ず寄るのがKunsthalle という現代美術館です。
そこにある常設展示の作品の中で一番気になるのが、30分のビデオ作品、Johan Grimonprezの“Dial H-I-S-T-R-Y”。
この作品は97年のDocumenta X にて発表された後、ハンブルクのこのKunsthalle だけでなく各国の現代美術館の常設展示に入りました。ビデオはSF映画やニュース映像、またはアーティスト自身が再現し、撮影したハイジャックやテロ、飛行機のサービス広告等の映像をつないで作られた15分の映像が2部。多くの“ビデオインスタレーション”作品は、5分以下でもなかなか最後まで座って見ていられない私ですが、この作品からは目が離せず最後までただ息をのんでいました。

“Dial H-I-S-T-O-R-Y”より

“Dial H-I-S-T-O-R-Y”より
映像のバックに流れるのはドラマチックな音楽ではなく、 アーティストがドン・デリロスという作家の2つの小説からインスピレーションを受けたというどちらかというとポップな音。 ハイジャックされた飛行機から乗客が滑り台で脱出したり美人スチュワーデスさんがにっこり乗客にサービスする時は楽し気な音楽が。
そんな音が時々突然さえぎられ、テロリストの要求や人質の声が入ります。
コマーシャルに細切れにされた遠い国の戦争をTVで見ているような感覚。リアリティのない不安感と安心感。

映像の多くは英語で、音質が悪いので聞き取るのが少々大変。耳よりも目を全開にしてくいいるように映像をみていた私の耳に、突然日本語が流れ込んできてびくっとしました。
70年3月に起こった、日航機のよど号ハイジャックの映像のようです。巨大なパンダぬいぐるみをひきずりながら手をひかれてよちよちとタラップを降りてくる小さな女の子。インタビュー。光るフラッシュ。日本語。
今までどこかリアリティの無いものとして見ていた、美術館の中の“ビデオインスタレーション”が突然自分のリアルに入り込んできたのを感じ、ちょっと体が震えました。自分がまだ生まれる前に起こった出来事。雑誌や写真、ニュースなどで見たことしか無い事実にもかかわらず、リアルなものとして私に切り込んできたのです。

リアルとリアルじゃ無いモノの間を漂うニュース映像、メディア。そのメディアをうまく使った素晴らしい作品だと思いました。ぜひ機会があったらゆっくり時間をとってみてみて下さい。

“Dial H-I-S-T-O-R-Y”より

Kunsthalle: Glockengiessenwall, Hamburg (中央駅すぐ)




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