ベルリンには、空地や空家が沢山ある。それは東西統一後の混乱による住宅事情やら、土地の値段が同じ場所でも高低混在していたり、 土地は良い場所にあるのだけれど、建物が文化財保護下にあり、簡単に直せないので買い手がつかなかったり、等の色々な理由からなっている。 ハーケッシャー・ヘーフェの裏にある一等地に、巨大な工場跡地があり、ここは私が来た時からだから4年以上もボロボロの空家のままで放置されている。 人が時々出入りしている様だけれど、ボロ具合は変わらず。そういった廃虚寸前の建物の多くは、クラブやアート展示の会場になることが多い。 そんな建物でダントツに多いのは旧工場、そして維持費が足りなくなっている教会なのだ。ベルリン内で展示をよくやっている教会は私が知っているだけでも4軒程ある。
教会は、内部の光と影も美しいので、インスタレーションも良いが、賛美歌やオルガンの荘厳な響きを耳にすればわかる通り、 抜群の音響効果があるので、コンサート等にも抜群なのだ。 坂本龍一がベルリンはクロイツベルクの教会内でコンサートをし、その音の美しさに感動したと言うが、確かに、ある種の神秘的な雰囲気と共に、その音の響く空間は、音を扱うアーティストに取って非常に魅力的なものと言えるだろう。

そんなわけで気になる教会での展示。教会という空間を生かしていない作品を見ると、 『ただの展示室じゃないのに、もったいない』と思うけれど、生かし切った作品を見ると、震えるくらい感動することもある。 先日、ミッテのParochial教会で行われたサウンド・インスタレーションがその空間を生かした、おおっ!という久々のヒットだったので、 今回はこの展示について書いてみようと思います。
その教会は、ミッテ地区の中でも、観光客が来る地区と、政府関係の建物が集まっている地区の隙間にあるポケットのような、 夜になると耳鳴りがするくらいシーンとしている地域に立っています。もうずーっと空家で、現在はサウンドをテーマにしたアーティストだけを扱ってるギャラリー団体がココの管理を請け負っている。 今回はBrandon LaBelle というロサンゼルス出身のサウンド・アーティストによる、教会の内部ではなく、鐘を鳴らす塔の部分を使ったインスタレーション。
鐘の部屋は、細い階段をひたすらのぼる、最上階に設置されていた。 まず入口を入ると両側に半円形の門がついた小部屋になっているのだが、その半円に合わせた形に、回転する板がついていて、そこの一ケ所にスピーカーが取り付けられている。 (左写真の写真左手にみえる黒い丸がスピーカー)で、観客が入ってくると、回転扉になっているので、入る、という動作によって、その扉が動くわけだが、スピーカーから出る音と、その小部屋の中にもあるスピーカーから出る音が扉を動かす度に変化して響きあい、不思議なメロディーを作る。 自分の体の回りに音がまとわりついているようで心地よい。
すごく原始的な仕組みで、音が色んな所にぶつかって、それが帰って来る速度が違う、やまびこみたいな感じなのか、扉をクルクル回して、 塔の小さい部屋の真中に立つと、四方八方から奇妙に歪んだ音がピリピリと伝わっている。 ゆっくり回したり、逆に回したり、早く回したり。
うゎーわーん、ぅわーんぉぅーんという響きに、ドアを回す音があわさる。
とても良かった。



鐘の塔の下にある小部屋には、もう1つ、ビデオを使った作品があった。 それこそ人によって感じ方が違うってところをついた、“音”の作品。 これも、“音”の本質をついたって感じがする、シンプルだけれど、面白い作品だった。 モニターが3つあって、1つには、風景のビデオが流れている。この風景のモニタからは音はでていない。映像だけ。
もう2つには、人が写っててその人は、どうやら、この風景のビデオの“音”だけが流れるヘッドホンをしているらしい。 耳をすませて(人は耳をすますと、目を閉じてしまうものらしい。皆目を閉じていた。)どんなことが起こっているかを想像して、 口述している。例えば、上右の映像は、Tucholskystrasse。Sバーンに続くエレベータと、その横はけっこう交通量の多い道である。
私達は、風景の音を聞く事はできず、彼等の口を通して、その“音”を体験するわけなのだが、 例えばカフェの音とか、聞いているだけではカフェ、と簡単に特定できず、不思議な事を色々言っていて、ああ、音だけ聞くとそんな感じなのかな、とか、ちょっとしたズレ、 彼等が考える、音や声から想像されるシーンや、その人の服装とかなんやかや。
私たちがモニタを通して“みて”いることと、かれらが“みよう”としているものの情景のズレみたいなもののところが面白い。 目と耳で私達が掴んでいるモノ、つかんでいる、と思っているものの間にあるモノというか。
シンプルな手法ながら、あれ?ってひきよせられる作品。 このアーティストの作品を色々みてみたいなあと思う、久々のヒット展覧会でした。

singuhr/hoergalerie in parochial kirche: U2 Klosterstrasse-----Klosterstrasse 67
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