ココでは私が気になった、みかけてどきっとしたアート、色々なモノをどんどん紹介していきます。
ポイントとなっているのは、目でみたものだけでなく、聞き、触り、嗅ぎ、食べ、ありとあらゆる感覚を使って“みる”こと。
展覧会はもちろんのこと、パブリックアートとして設置されているもの、コンサート、舞台、壁の落書きまで
ぐっっときたらなんでも紹介していくつもりです。

 ベルリンには、旧デパート、旧金物工場、旧大使館など、旧〜という昔何かだった建物が、そのまま放置されていることがけっこう多く、地価が上がったため、次の建物が来ないまま、アーティストに無断占拠されたり(今は許可ありで住んで居るのがほとんどですが)次の建物が2年後、3年後から工事着手なので、それまでを安く借り、クラブをオープンしたり、ギャラリーをオープンしている所がけっこうあります。先日訪れたギャラリーも、壁が全面白いタイルでかなり奇妙な空間だったのですが、『もともと洗濯屋だった』と聞いて納得。私自身も旧ブルガリア大使館で展示したことがありますが・・・。そういう建物はクラブ(暗いからみえないのであまり直す必要がない。フラッシュライト、モニター、巨大なステレオを運び込めは改装完了)かアーティストのアトリエ(床や壁がむき出しでぼろぼろでもかまわない。)ギャラリー(一応白っぽく、暖房とライトがあれば改装完了)に改装される例が多いようです。

廃虚のような旧ブルガリア大使館。鉄骨がむきだし。
 私が展示をした旧ブルガリア大使館。下(1階)はもう閉まってしまいましたが、cookies という有名なクラブでした。もともとはカクテル狂だったというクッキー。色んな場所でバーを開き、成功、今やバーとカフェの経営者。
そんな彼がこの場所を工事着手まで3年間安く借りうけ、1階をクラブとして使っていたのですが、彼の友人が,上の空きスペースをギャラリーに使ってみようと思い立ち、ギャラリーに改装しました。私はたまたまこのギャラリー経営者が若いアーティストを探しに、大学のオープンアトリエにやって来た時に作品を気に入ってもらい、ココのこけら落とし(?)展覧会に参加することに。
変な所に隠し部屋や隠し扉がたくさんあって面白い場所でした!
下のクラブにも何回か顔を出しましたが、クッキーが、“ベルリンで一番行きたくないトイレ”と自分で言うだけあって、トイレがおっそろしく汚いのであまり長居すると辛かった・・・。夜見ると、音と相まってクールなスペース(!)に見えるのですが、昼に行ってみると、真っ暗で、もうもうと煙りが立ち込め、甘くて埃っぽい匂いがする廃虚に、粗大ゴミみたいなソファーと、巨大なステレオがあるだけでした。・・・
“夢のあと”という言葉が頭に浮かびました。

 さて先日、東南ベルリンFriedrichshain、ベルリンの壁がちょうどあった辺にある、旧工場を使ったアーティストの集団アトリエ Atelierhaus Mengerzeileのオープンアトリエを見に行って来ました。
以前そのアトリエのオーガナイズをしていた人の一人に日本に3年居たと言う人がいる関係から、日本人若手アーティスト、ヤノベケンジさんなんかもゲストアーティストとして在住したことがあるとか。彼以外にゲストとして迎えられた人は、スウェーデン、アイスランド、ノルウェー、など北欧が中心、他はギリシア、フランス、ロシアなど。旧ピアノ工場だったこの場所で35人の現代アーティストが製作、生活(してる人もいる)わけです。この場所を管理するためVerein、(団体、協会)を作りオーガナイザーを雇い、国内外のアーティストの交換や団体の基盤の向上をめざして、色々なプログラムもおこなっています。
アトリエ内に、オーガナイズする人の事務所みたいなのがあり、そこが受け付けなどを請け負ってくれるため、アトリエ内でも展覧会をオープンに開けたりします。
今回のオープンアトリエでは、来客は友人知人が中心のようでしたが、きっちりと展示をして、コレクターと値段交渉をしている人がいたり、ほとんど仕事場をそのまま解放してるだけだったり、オープンアトリエへの気合いの入り具合は人それぞれ。
アトリエは72平方メートルと90平方メートルの大きさ、以前は少々安かったようなのですが、ベルリンという都市から今、年々お金がなくなり援助金が落ちて来たとかで、家賃は高騰中。72平方メートルで 850マルク、5万くらい、 90平方メートルで 1200マルク、7万くらいでした(2001年秋当時)。今またアトリエのシステムは大幅に変わって来ているようなのですが、詳しくはわかりませんでした。

数カ月滞在して、旅行と仕事がしたい、という海外アーティストには
重宝されているようです。
色々なアトリエを見た中では一番清潔で、絵の具とペンキの匂いがしました。夏は前でグリルをよくやっていて、香ばしいです。屋根裏みたいな所を今改装していますが、そこは地下室みたいな匂いがしました。

MY BESTトイレin Berlinです。
(笑)
タイルに全部窓が描かれていて、
入ると、どれかひとつがパタ、
と開いて誰かが現れそうな気がします。
ちなみに清潔な匂いがしました。
これは長く滞在する上で
非常に大切です!
Atelierhaus Mengerzeileを
外から見た所。
右手前、道路に部分的にみえる
石畳の部分が、
昔ドイツを東西に分けていた壁の跡です。
ここは旧東側。

 アーティストのアトリエの一つ。
鳥を放し飼いにし、
自分の作ったオブジェの周りに
飛び交わせている不思議な空間。
鳥の匂いはほとんどせず、
アトリエに染み付いているらしき
絵の具の匂いがちょっとして、
後は、羽ばたきと、
オブジェがかすかに動く音だけが
聞こえます。
なんと言えば良いのか、
“白い匂い”がする部屋でした。


 最近、ベルリンはお金がない!、という話をどこでもよく耳にします。以前無料で(というか、不法で)工場や廃虚を占領していたアーティストやギャラリーは、だんだんきちんとお金を払わなければいけない状況となり、おっそろしく汚いクラブ dirt とか、ゴミ箱、という名前のクラブとかは廃業、追い出され、(この2つのクラブは、どっちも、不法占拠で、追い出されるまではごみを掃除しない!そのゴミで歴史を語る!みたいなすごいクラブだったらしいです。)ちなみに、dirtも真っ暗でほこりと煙りとお酒と油の匂いがしました。
アーティストが管理していた、ちょっとギャラリーっぽくなかったギャラリーとかもだんだんギャラリーっぽく、整えられて来ています。
整えられて来て面白くないなあ、とは思う反面、お金がなくて、やっぱり当分、整えきれなそうだ、という話を聞くとう〜む、とも思ってしまいます。これから高層でかっこいい建築とかがばんばん建つのかなあと思っていたらもう、お金のある人たちはだいたいもう建てきってしまったから、(例えば、ソニーセンター、ベンツの本社など。)案外まだ空き地がそのまま残りそう、ということ。
空き地、廃虚が、新建築と混ざっている所が面白いのですが、お金がなくて、やっぱり美術インフレ、アーティストの数が多すぎてギャラリーも作ってるけど、買う人が来ない、という状態もね・・・・・としみじみしてしまうのでした。

(この文章は2001年夏、mienai-tenMLのために書かれた文章を訂正加筆、写真を加えたものです。)
(ちなみに当時と比べてベルリンの経済状況は全然良くなっていません。ベルリンのアートメッセなどはあえてマーケティングと違う路線を狙った展開をみせていて面白いですが。)



一段ごとに言葉が書いてあり、
詩のような階段。
昔滞在していた
アーティストの置き土産?

Atelierhaus Mengerzeile: S Bahn Treptower Park/ U1 Schlesisches Tor----- Mengerzeile




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