先日、友人が出演するパフォーマンスを見に行きました。事前情報なしにふらりと見に行ったのですがこれが見た後も頭にずっと残るイイ感じの作品だった!今回はそれについて書きたいと思います。
パフォーマンスのタイトルは『nahme wieder gabe auf (RE TAKE IN PUT)』ドイツ語っぽいのですが、文法的にはわざと違わせてあり、意味がわかるようなわからないような、意味と無意味の間のような、タイトル。このタイトルがこのパフォーマンスを読み解く鍵となっていました。
会場は、DOCK11 というベルリン、プレンツラウアーベルクにある、旧工場跡地を改装した場所。ひんやりとした灰色の空間にスポットライトが当たり、そこにニッコリと笑顔を浮かべた日本人のパフォーマーが立ち、『本日はようこそ、おいで下さいました』というような、意味はあるのだけれど、上滑りする、デパート等で使われる挨拶を繰り返します。
この不思議なドイツ語がひたすら繰り替えされるのを聞いていると、だんだん頭がぼーっとしてきて、この舞台の世界に引き込まれていきました。
暗転。

舞台にスポットがあたり、日本人のパフォーマーが再び、にっこりと笑顔を浮かべ、『だるふいっひふぉあしゅてれん、あいねふぉあしゅてるんぐ・・?hぇんでぃーふぉあしゅてるんぐ、にひといーれんふぉあしゅてるんぐにひとえんとしゅぷりひと・・・』
???ふぉあーしゅてれん、えっ、何?
言語と音の合間のような、意味がゆらゆらと宙をただようように繰り返される言葉。『ふぉあーしゅてれん』は“vorstellen” 紹介する/想像する/思い浮かべる、の意で『ふぉあーしゅてるんぐ』は、“Vorstellung” 紹介/公演/イメージ。『これから公演を御紹介させて頂きます。もしこの公演があなたの想像と一致しなくても・・』という感じの意味です。しかし、意味よりも耳に残る『ふぉあーしゅてれん』が頭の中でぐるぐる。
『ふぉあーしゅてれん』のリピートが終わり、彼女が舞台を後にすると、男の人があらわれ、パフォーマンスを始めます。彼が動くと、それがスクリーン上に再び現れ、彼は過去の彼と共演します(左写真)。そしてそれが終わると再び、『ふぉあーしゅてれん・・』が始まり、再びパフォーマーが彼の画像と踊りだし・・・
スクリーンが微妙に大きく、それを目で追っていると、実際に踊っているパフォーマーが目に入り、彼を追うと、録画画像が迫ってくる・・。画像と彼の動きの微妙なズレで、彼が過去の画像をリードしているのか、追いかけているのかがだんだん分からなくなっていきます。この録画されたブレのある過去の画像/過去をリードし、追う、舞台上に実存するパフォーマー/ひたすらリピートされる『ふぉあーしゅてれん』、この3つの要素が何度も何度も何度も繰り替えされるうちに自分の立っている基軸もよくわからなくなってきます。

何回かリピートが繰り返された後、床をゴシゴシと磨いていた男のパフォーマーが、別のパフォーマーの体をこすり始めました。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ。
彼の振動がもう一人のパフォーマーの体につながり、二人は、まるでビデオが、機械の不調で同じところだけをひたすら回ってしまうかのように、ブルブルと動いています。その動きは“今”と“一瞬後”の世界を行き来し、混線して、見ている方も頭が真っ白に。

繰り返される“今”と“過去”、ある時はヒステリックに、ある時は浮遊するように、その合間を行き来する、そんな感じが、みている観客のからだにも伝わってくる作品でした。




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