私がベルリンに初めて来たのは98年。その時は旅行でしたが、大学卒業後、一度ヨーロッパに出たいと思っていたので、その下見でもありました。
たまたま大学の講師にヨーゼフ・ボイスに憧れてデュッセルドルフに行って学び、その後も画家として活動していた方がいて、 その人から、ドイツの美術教育、アートがいかに素晴らしいかを吹き込まれ、そうか、これからはアーティストはドイツだな! と生真面目に信じ込んでドイツにやってきたのですが、イマイチどの街に行っても魅力を感じず。 ミュンヘン、デュッセルドルフ・・素敵な街ではあるけれど、もう全てがきっちりと区画されてしまっていて、これなら東京に居ても変わらないだろうと思ったり。
しかし、最後に足を踏み入れたベルリンは、埃っぽく、そこら中に工事現場が立ち並び、美術館は改装中だったり、ギャラリーは廃屋の中にあったり、 とにかく、渾沌とした中から何かが起ころうとしているパワーと、また、価値が確定していない面白さを感じ、『この街に来よう!』と即決したのでした。 それからもう7年!ベルリンに5年!早いものです。
前置きが長くなってしまいましたが、去る4月28日、ライプツィヒにオープンした旧紡績工場を使った巨大なギャラリー、イベントスペース等が集合したカルチャー・コンプレックス。   このオープニングに行ったのですが、ここで、98年ベルリンで感じた感覚が蘇ったのでした。

ライプツィヒ・
木綿紡績工場、の文字が壁に残してある。
紡績工場の歴史等を
見られるスペースも



イベントスペースのあるHalle 14 は
屋上にも作品を展示。
(Topページの写真参照)
それを見に屋上に登った。
. 上から見ると、
このスペースの広大さがよく分る。

1884年に創立されたという、5900平米もの広さを持つこの木綿の紡績工場(Baumwoll Spinnerei)はずっと廃虚みたいな状態で放置されていて、 これまでもポツポツとアーティスト達が住まってアトリエにしていました。 昨年行った時はもっと寂れてて、ライプツィヒってアトリエスペースには苦労しないのよ、なんてそこにアトリエを持つアーティストは自嘲気味に言っていましたが、 今回は、9つのギャラリーと広いイベントスペース(今回のオープニングには、2人のコレクターさんのコレクション作品を並べた展示とオークションが開かれました)が一斉にここに集合、 同時オープニング!という一大イベント。 どさくさにまぎれてソーセージスタンドが立ち、カフェがオープンし、早い夏祭りのようで、アート関係者だけでなく、町中の人達が集まってきたかのような賑わいでした。
私達は、レンタカーに乗って行ったのですが、ライプツィヒはどこも駐車スペースだらけで、『ベルリンとは比べ物にならないね〜』なんて笑っていたのに、 この紡績工場の前には数百mに渡って、スイス、オランダからハンブルク、ベルリンナンバーの車がずらり。 このアートスペースへの注目度が伺われます。
イベントや展示は、これ!というのは少なかったけれど、とにかく、熱気が良い!
何でもやってしまえ!って自分の表現を考え無しにぶつけたような作品が多かったけれど、妙に考え過ぎて、分かったふりして、諦めが入りかかっているより好感が持てます。 得体の知れないぐちゃぐちゃに描き散らしたようなドローイングとビデオを並べた前で、うさんくさい感じのギャラリストがビール並べてアート論をぶってたり、 かと思うと、びしっとプレゼンテーションからカタログから揃えて見ごたえある展示を出してるEigen & Art があったり。
その間に、突然自転車屋や、ダンス教室が入ってたり、酔っぱらったアーティストがうろうろしていたり、家族連れが画材を買ってたり。 ミックス加減がすごく、壁崩壊後のカオス時期のベルリンみたいな感じで、イイモノもワカンナイモノも一緒になってパワーに溢れている感じがしました。
これから、の匂いがする場所。

そんなカオスの中でも、がっちり見ごたえある展示を見せてくれたのは、東独時代からギャラリーをやっていて、 今や世界的に有名なギャラリーとしてその位置を固めているEigen & Art。 ギャラリストのリプケさんは元々自分がギャラリーを始めたライプツィヒという土地に思い入れがあるのか、ライプツィヒを中心とした画家達や、 最近は彫刻等にもスポットを当てています。多分、今回の紡績工場のプロジェクトの音頭を取ったのも彼ではないかと推測。
カーステン/オラフ・ニコライ、クリスティーナ・ヒル、ネオラオフ等有名なアーティスト達をずらりと抱えていますが 今回は Birgit Brennerという人のインスタレーションを、天井が高く体育館くらいありそうな巨大なスペースをめいいっぱい使って見せてくれました。
あるホテルの1室に男女が1組。壁に引いた1本の線に時刻を刻み、そこで起こった出来事を、時間を追って、映画の台本を立体にしたみたいな不思議なインスタレーション。
右写真は、その一部、口争いがフキダシの形になった看板みたいのにプリントされてごちゃっと部屋の角に立て掛けられています。 切羽詰まって出口無しな口げんかの雰囲気が、無造作に積まれた板と棒に重なり、 壁に縫いつけられたような花模様や集中線が、また、その部屋と2人の間に流れる空気をこっちの肌にまで伝わらせてきます。
Birgit Brenner は64年生まれ、ベルリン在住。 ベルリン美術大学ではレベッカ・ホーン元で学んだようです。 彼女の以前の作品、赤い毛糸で文字を書いたり、皮膚の上に赤い筋をつけたような作品は、私自身の過去の作品にちょっとかぶる様に思えて、 逆に、もう、みたく無い、入れないな〜、と思ったのですが、 今回の作品はテーマとかは通じるものがありますが、すごくリアルで、考え抜かれている感じがしました。 『時間の流れ』『漂う空気』を表すのに多くのアーティストはビデオやパフォーマンスを選びがちだけど、こんな形でも出せるんだ! そして、巨大な部屋を使ったインスタレーションということで、その時間の中に観客をほおりこんでしまえている。 面白い作品でした。彼女の次の作品もぜひ見てみたいと思いました。

Spinnerei:-----公式HP 




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