ドイツは日本と違って、夏に学年が終了します。 日本だと、春、桜の咲く頃に入学式、卒業式ですが、こちらだと夏まっさかり、という時期に行われます。
さて、私が今滞在しているシュロイジンゲンという小さな街では、Abitur(アビトゥーア)と呼ばれるギムナジウムの卒業試験 (大学の入学資格を得る試験でもある)が終わり、無事卒業となると、その卒業式を盛大にお祝するイベントがあります。
Abitaufeというそのイベントは、日本語だと、卒業洗礼。 なぜ洗礼かというと、最後に、前年度の卒業生によって、今年度の卒業生が水浸しにされるから。 街をあげての一大イベントで、学校の前には巨大なビアホールが設置され、出店が立って、町中から、 そして、ギムナジウムには近隣の村からもけっこう子供達が通学しているので、彼等の家族、親戚、友達・・どっと人が押し寄せます。
ギムナジウム自体は1577年からある伝統ある学校でドイツ最古のギムナジウムの1つ。 このAbitaufeの歴史はそれにくらべると短いですが、東独時代にも町自体のフェスティバルも一緒に行われ、盛上がって来たものだそう。 物見高い私は、ちょっとのぞいてみる事にしました。

布袋を切り裂いたボロ服で
最初に入場したのは、
洗礼を行う僧。
   前年度の卒業生達が
この役を勤めます。


もともとは、1933年、当時6名いた女生徒の1人が始めたもの。
それまで男の卒業生は卒業試験に無事合格すると三名の男子生徒によって胴上げされ、そのまま肩車して郵便局へ向かい、 そこから自宅に『卒業試験ゴウカク。カネオクレ』と電報を打つ風習がありました。(変なの・・) しかし、女生徒にはこの風習はふさわしくない、でも祝いたい、というわけで1人の女生徒が、男子生徒達が肩車で郵便局に向かい、 また出て来るまでの間、手押し車に乗って噴水池に入り、男子が郵便局を後にし、 カフェで大騒ぎをやらかしはじめる時、再び手押し車にのってカフェに乗り付けたのです。
噴水に向かうことから、水をかける、という儀式が第二次世界大戦後始められ、現在のような形になりました。
まずは、洗礼を施す僧、という設定前年度の卒業生達がボートをかついで噴水の周りに集合。 ボロボロの麻袋を裂いて手足を出しただけの貧し気な格好は、僧、の衣装ですが、水をかけたりかけられてびちゃびちゃになるので キレイな服を着て来てもしょうがないから、ということでもあります。
続いて、手押し車に乗った卒業生が学校からガラガラと手押し車に乗ってやってきます。 それぞれ、手押し車を自分達で装飾を施し、他学年の友達や、兄弟姉妹にひいてもらっています。 草や花をたっぷりつけて飾るのが基本的なデコレーションらしく、皆どっさり花を飾っています。 昨日は花屋の花が色々値下げされていましたが、このためだったのか!と納得。
草花で飾ったデコレーションの上に、『やっとオサラバ!』『2005年度卒業』等と書かれた看板を掲げたり、 友達からの寄書きを飾ったり。ビニールプールを乗せて、傘、とか、アラビア人のような格好をした人や、 ステレオとラジカセを持ち込んでテクノをかけている人や・・皆各々趣向をこらしていますが、 ちょっと照れくさく感じているのか、地味に飾り付け、サングラスをかけて斜に構えている人なんかもいました。 うーん、私もここで卒業式を迎えるとしたら、ちょっと同じ心境かもしれない、と思ったり。 しかし、そうかと思うと煙草片手に、シャンペンラッパ飲み、回し飲みをしながら、かなりハイになっている人も。
私の高校は私服だったので、卒業式には仮装をして来てた人もけっこういましたが、 さすがにシャンペンラッパのみとかビール瓶をそこら中に置き散らしている人なんかは居なかったです。 さすがドイツ人の高校生だわ・・。ガタイも良いし、パワーが違います。

今年は92人いる卒業生達の手押し車が、噴水の周りに三重に渦を巻いて並ぶと、 舞台の上から、学生が名前を呼び、彼/彼女は学校でどうだった、という短い韻文が読み上げられます。 『卒業したらアイルランドに行く彼女は英語を話している時が一番幸せ』とか『授業が終わったらまっ先にフィットネスセンターに』とか、たわいもない内容ですが、 いちいちどっと笑いが巻き起こり、拍手で迎えられます。 そして、親、親戚はビデオとカメラを持ってにじり寄って撮影しまくっていました。 『紐の中には入らないで下さい!』とガードマン役の学生が何度も注意しますが、それでも なんとか良い写真を撮ろうと必死のお父さんお母さん、手をふるお婆ちゃん達。
そして、その韻文を読み上げられて居る間に、前年度卒業生は噴水から水を汲み、卒業生と、手押し車に水をどばどばかぶせます。 そのため、卒業生達も、Tシャツの下に水着、といった適当な格好。 濡れネズミになった友達にさらにシャンペンを頭からかけて、野球の優勝後のビールかけを思わせる熱狂ぶり。
きゃー、うぉー!と叫んで、友達同士かけよって抱き合ったり、泣いたり、笑ったり、水鉄砲で水をかけあって悲鳴をあげたり、高校生らしいかしましさ。 その騒ぎを見ながら、自分の高校時代を思い出し、しみじみしました・・・。



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