(c)Internationale Filmfestspiele Berlin


ベルリンに来てから、映画館で映画をみる機会が増えました。 それは、レンタルビデオの代金が、日本のように安く無く、1泊3ユーロ前後で、映画館で見ても、映画の日なら5ユーロ前後だからなのです。 スターウォーズのようなスペクタクル映画とかは、やはり映画館でみると格段に面白い。今回の映画祭でも、映画館でみてよかったなあとつくづく思わされたのがこの映画、『水の花』です。 カメラワークがすばらしいのです!
ずーっとヒキのショットが続くんですが、これぞ、映画館で映画をみる楽しみ。小さい画面では、絶対伝わらない美しさです。 すみずみまで広がる美しい風景、光と影、そこにいる2人のこどもの、言葉に表されない心までが、その、広い空間の中に広がっている気がしました。 なんらかの感情を映画の中で伝えたい、とする時に、俳優さんの顔に寄って、俳優さんが喜怒哀楽をあらわすという表現方法もあるでしょうが、 この映画ではそれが、まったく使われず。
それが美しくて、ちょっと悲しくて。きれいな映画でした。


(c)Internationale Filmfestspiele Berlin


小さい頃、母親が出て行ってしまった、自分は捨てられた、という心の傷を持つ中学生の美奈子。
母が近所に帰って来たと聞いて、そっと、その家を見にいく。
雨の日、遠くから、ぱたぱたと黄色のコートと小さな傘、そして『おかあさんー』の声。その『おかあさん』は美奈子の母なのだ。 見知らぬ、自分以外の子どもに『ほらほら、傘をたたみなさい』とやさしく声をかける母を目にし、美奈子はそこを離れる。
その子どもは、母が妊娠し、美奈子が7歳の時、父と自分を置いて出て行く原因となった、優。  優の父とも現在別居し、女手ひとつで生活しようとしている母は、夜働きに出ている。出ていかないでと、お母さんの靴を取り上げてしまった優に『がまんしなさい』。 優は、『お父さんとも、友達とも離れて、バレエのレッスンもやめて、たくさんがまんしてるもん!』と憤懣やるかたない。
『おうちに帰りたくないの』とぶらぶらしていた優を、街中で見かけた美奈子は、彼女に声をかけ、空き家となっている、亡き祖父母の家に一緒に行く事にする・・。

タイトルの『水の花』はラストシーンに現れる。
そのラストシーンまで、まったく人物の顔のアップがない。台詞もほとんどない。
監督によれば『台詞や表情でみせるのではなく、空気、熱、時間・・それらをじっくり
カメラをすえて2人を撮り、みせたかった』そうだ。

主演の寺島咲は、特に長いセリフも、激するような演技も無い中、嫉妬、混乱、悲しみ、怒り・・を表現していてなかなかよかったです。
2005年のベルリン映画祭に来ていた、大林宣彦監督の『理由』でも好演していたそう(未見)原作は読みましたが、片倉ハウスの娘役だそう。

優の役をした小野ひまわりが、雨のなかでバレエをするシーンのかわいらしいこと!
一つ一つの場面がキラキラしていました。
1981年生まれの木下雄介監督は、早稲田大学の映画祭でグランプリを獲得した自主制作映画『鳥籠』で、 ぴあフィルムフェスティバルアワード、2003で準グランプリを獲得した方。 この、『水の花』は2作目となるのでしょうか。ベルリン映画祭では、キンダーフィルム部門での参加となりました。 上映後の、質疑応答では、『僕も最近、キンダーを卒業したばかりです。皆さん、気軽に質問してください』とにっこり。 たしかに、まだ25歳くらい。若いです!!これからどんな作品を撮ってくれるのか楽しみです。




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