“fremder Freund”。日本語訳すると“見知らぬ友人”とでもなるのでしょうか。
この映画は、9月11日のテロの話を軸に、今まで友だちだと思っていた人がふっと、見知らぬ一面をみせ、その人の事を自分は本当に理解していたのだろうか?と不安になる瞬間について、語っている映画です。
Fischer 監督は、パキスタン人の長年の知り合いとビールを飲み交わしていた時にこの映画を思い付いたと言います。『僕らは飲み、サッカーについて、女の子について、世界について、話してて、9月11日の話になったんだ。普通に話してた、その知り合いが、ワールドトレードセンターのテロの時の自分の心境を語るまで。』彼は言った−『僕らはとっても喜んだんだよ!』
長年お互いを知っている仲間−だと思っていた−の信じられない発言。『何故?どうして今までこんなに近しく感じていた人がこんなに急に見知らぬ人になってしまう?』この気持ちが、監督をこの映画の制作へと駆り立てたといいます。
この映画のテーマはその不安、『君の事を理解していると思っていたのに?本当に?僕らは友達だったよな?いや、僕らは本当に友達だったのか?』であり、テロの話は背景だと言います。
映画はまさにこの疑問をChrisが彼の同居人で友達(だった?)Yunesに書くところから始まり、時間は彼等が最初に出会った、一年半前に戻ります。
アラビア半島、イェメン共和国からドイツの工科大に留学して来たYunes。彼が貼った『WG(ルームシェア)求む!』を見て、一緒に同居することとなったベルリンの大学生、Chris。
好きな子ができたYunesを応援したり、2人でアラブ風ティータイムを楽しんだり、御飯を手で食べてみたり・・普通のWG生活を送っていました。時々、4人で遊びに行った後、床にごろ寝しておしゃべりしている時に、Yunesが、『アメリカがパキスタンにしたことはホロコーストと比較できる!』等と発言し、(こういう発言をするとドイツ人は必ずすごく反論してきます。)小さな言い争いが起こったりすることもありましたが、いたって楽しくやっている、とChrisは信じていたのでした。
しかし、ドイツ人の彼女、Noraと上手く行かなくなって情緒不安定となったYunesを心配しながらも、一ヵ月半、Chrisが彼女と旅行に出かけて帰ってくるとYunesはすっかり変わってしまっていたのでした。ヒゲをたっぷりと貯え(イスラム教では、敬虔な男性信者は、あごひげを蓄えねばならないとされている。)お祈り用の絨毯を部屋に置き、Juliaからただいまの抱擁を受けた後、水でそれを浄める、等々。そんなYunesにちょっと不安を感じ、必死に元の彼に戻そうと努力するChrisでしたが・・・。

Yunesが身の回りの物だけ持って消えてしまった後、Chrisは彼を探そうとして、自分がいかに彼を知らなかったのか、と、愕然とします。どこを探せば良いのかも、彼のイェメンの連絡先も分かりません。分かるのは、いくつかの名前だけ。イスラム教徒の集まる教会に行ってみたり、集会所をあたったり、大学の学生科を尋ねたり・・。実際こういう事は自分も“ベルリンに住まう外国人”として実感しているので、とてもリアルでした。
ドイツの首都で人口密度こそ低いですが、東京と並ぶ大都市であるベルリンにはそこら中に外国人が居て、簡単に友達にもなるし、一緒に遊びに行ったり、話をしたりします。普通のドイツの都市にいるよりはずっと短期間で知り合いが増えるのです(でも日本よりはとっても時間がかかる)が、そこは都会の特徴というか、例えば家族の事とか、そういったプライベートな深い付き合いはあまりせず、『彼女、自分の故郷に帰るんだってさ』『へー、残念だね』といった次第。もちろん、寂しくは思うのですが、あまりに多くの国から色んな人が来ては帰って行くので、いちいち、とっても悲しんでいたら体がもたないのでだんだん『ふーん』という感じになってきます。自国に帰ってしまってからも付き合いが続く人も居ますが、大方、ポツポツと連絡があるくらい。まったく連絡が途絶えてしまう人も少なくはありません。そして、居なくなった後、色々な事を別の人の口から聞き、そんな人だったのか??とびっくりしたり。あんなに多くの時間を一緒に過ごし、話し合い、理解していると思っていたのは、私の独り相撲だったのか?と寂しくなり、また自分達の友情に疑問を感じ、相手を信じきれない自分を恥ずかしく思う。Chrisの気持ちが自分の気持ちと重なりました。
主役の2人は実際に一緒に舞台となったアパートにずっと住まい、友人関係を築き、そんな彼等の生活を、撮影期間中、ずっと隣に住んでいた監督助手達がデジタルの手持ちカメラで撮り・・とかなり密着した撮影が行われた様です。画面も手ブレがすごく、また時間も交錯するのでちょっと画面が見にくい感はあるのですが、見た後に色々なことを考えさせる小粒な秀作でした。




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