今回は、ドイツで工事中なモノ、を紹介していきたいと思います。
工事中というか、ドイツ人の大好きな、お家作り、というか改装というか・・の観察考です。トンテンカンテン。

ドイツ人が必ず家に携帯しているものは何でしょう?
答えは水平定規。
定規の中に、油と、気泡がはいっていて、その気泡が真中に来ることで、水平を測る定規です。
私が聞いた中では、ほぼ100パーセントの人がこれを持っていました。持っていなかったのは、ビジュアルコミュニケーション科の美大生、ひとりのみ。もちろん、建築家や、展示をする時のアーティスト等がこの定規を持っているのは普通でしょう。しかし、老若男女、どんな家に行っても、日本でドイツ人と暮らす友人に聞いても、これを携帯している人がほぼ90〜80パーセントの割合で存在するのです。
私はちなみに、いつも人に借りていますが、この定規が何故ドイツ人の家に必須かというと、彼等は自分で家を直す、もしくは建てるからなのです!
 工事好きだから、というわけなのか、自分でやった方が、思い通りかつ安上がりだからなのかは分からないのですが、引越しをすると、皆、嬉々としてペンキを塗り、台所に棚を作り、水道管を配管し、とまあココまでは日本でもやるかもと思うのですが、一番びっくりしたのは、壁まで作ったり別のところに建てたりしてしまう所です。

友だちの家の引越しパーティに行った後、数カ月後にまたその家に行ったら、何か雰囲気が変わっていたのです。私、『あれ?引越して来たばかりの時となんか雰囲気が違うね、この家』友だち『ああ、この壁を向こうに立ててこっちは壁をくり抜いてドアにして、部屋を増やしたからね』。ええっ!? びっくりしました。自分で家を買ったというならともかく、借りたアパートの一室の壁をくり抜いたり、それこそ丸ごと外して別の場所に動かす!?しかも、『このドアは潰れたホテルから拾って来たんだよ、お金、全然かかって無いんだよ!』と自慢げ。なるほど、こういうのの為に水平定規が必要なんですね。

シュピーゲルというドイツ売れ行きナンバーワンの雑誌があるのですが、この購読者プレゼントでも、充電式ドライバーがあってびっくりしました。それだけではありません。銀行の口座を新規に開くともらえるプレゼントにも充電式ドライバーがあります。クリスマスプレゼントに、工具セット!というのもドイツではアリ。子どもの玩具にも工具セット、工事現場セットは沢山あります。『作ったものを買って贈って失敗するより、作れるものを贈ろう!』というのがクリスマスに見かけた、工具セットプレゼントのウリ文句だったのですが、う〜ん、ドイツらしい考え方。
そんな彼等のために、かなりの頻度で建築や工事、工作のためのお店が存在します。大手はバウハウス(美術やデザインの流れのバウハウスとは無関係です。)、オビ。ベルリン市内だけでもそれぞれ10数軒の店舗を持っています。店内は水道管からかがみ、ドア、釘とありとあらゆる種類のモノが並べられていて、一見充実しています。
私も、ちょっとしたもの、例えば作品を展示する台などを作るためにこう行った所に出入りするわけですが、東急HANDSのような、痒い所に手が届くような充実っぷりは決してありません。そして、多くの店員が非常にぶっきらぼうです。
何かを探していて、見つからない場合、店員に聞いても、たいてい、『無いなら無い』と言われて、おしまいです。決して在庫を見てみましょうか、とか親切な対応は期待できません。他の支店にないの?と聞いてみても、『じゃどこか別の支店に直接行って』と言われ、決して『他の支店に在庫問い合わせしてみましょうか』などという親切な店員は存在しません。私も、こちらに来て数カ月は、こういう対応に疲れていたのですが、最近はもう、あまり期待していないので、たまに店員が『あなたの探しているものはこの棚です』と連れていってくれたりすると、感激してしまうほどです。

こんな感じで、自分で作ること大好きなドイツ人は、自分でシンクとかも設置してしまいます。私の考えでは、シンクやお風呂など、水回りを自分で設計し、配置までしてしまうというのは、よっぽど自分の設計能力に自信があるのだろう、と思うのですが、それは大抵、そんなことは全然なく、ただ、やりたいから、もしくは、自分でやった方が安上がりだから、という理由にもとづいて彼等は動いています。非常にこだわっているにも関わらず、不器用なのかなんなのか、抜けている部分がけっこうあるのです。

例えば私の以前住んでいた家も、ペンキでカラフルに塗られていて、あ〜こだわったんだなあ、と思う塗り分けがなされていたのですが、テレビを動かすのにちょっとコードをずらしたら『あっ、塗残し!』
様々な形のシンクがずらりとならんでいる所
あるバウハウスで。
豊富なシンクの棚。

家のドアに適当に開けられた二つの穴の写真 壁が真中で真ん丸にくり抜かれている友だちの家で、●が全然正円じゃなかったり。(多分、丸く穴を開けたい!という気持が先走っていて、それが美しく丸くできるかどうか、というトコロにはあまり気がいってないのでしょう。この辺は、コンセプトが先に立って、主張はわかるけど・・という作品が多い、ドイツアートと通じる所がある気がします。)
水平定規できちーんとじっくり時間を書けて測って立派な絵を掛けているのに『曲がってるよ・・。』
私が今住んでいる家のお風呂場は、廊下に向かって開くドアがついていたのですが、廊下にタンスが置かれ、開かなくなったため、そのドアを引き戸へと改造しています。元ドアのブだった場所のノブの跡の穴が引き戸用に指を入れられるように工夫(?)されています(左写真)。ドア、斜なんですけどね。
それくらいなら可愛いのですが、お風呂場の壁にどーんと穴が空いているので何かな?と思って追跡すると、隣の部屋の洗濯機の廃水につながっていたり(ドイツでは多くの家が洗濯機は台所にあります。)あまりに手作り過ぎて、いつ水もれするかとどきどきしてしまいます。
プロの仕事だからといって油断はできません。先日、電気屋さんが家にやってきて、新しいコンセントを親切にも増設してくれることになったのですが、古いのを剥がし取って、その横にががががっとドリルで穴を開け、新しいのを設置してくれました。見ると、古いのがあった場所は前のペンキもはがれ、コンクリの面がみえています。『汚しちゃってすみませんね』とあやまりながら壊れた壁のかけらを掃除してくれる彼らに、『壁はがれてるんですけど』と文句を言うわけにもいきません。
ちょっと愚痴になってしまいましたが。
ドイツ人が、自分で建てたり切ったり直したり、工事が大好きな人種であるのは間違いなさそうです。 (もちろん、汚れるのが嫌だとか、例外もありますけれど)ドイツ人家庭に行く機会があったら、ぜひ観察してみて下さい。




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