耳で工事中コンテンツのラベル


ベルリン、昨日の準決勝でドイツがイタリアに負けました。
そして、今日外に出てみると、街の雰囲気がうって変わっているのです! その変化の劇的なこと、驚いてしまいます。
まず、あきらかに、町中にあったドイツ国旗の数がぐっと減少し、ユニフォームを着てうろついている人も、子どもばかり。
サッカーの話をしている人も見かけなくなりました。
三位決定戦があるんだから、まだ盛り上げて、応援してあげようよ、と昨日イタリアを応援したくせに、ちょっとドイツが可哀想になっている私です。

さて、今回のコンテンツは、写真無し。
今回のワールドカップで初めて試みられた、視覚障害のある方のための無線を使ったライブ中継の話を書いてみようと思うので。
いつもは、写真の力を借りてばかり。もちろん、言葉でしか伝えられないことはあるとは思うけれど、逆に、画面でしか伝えられないこともある。
私にとっては、サッカーの試合、というのは、圧倒的に音(騒音)と観客の熱さ、温度みたいなもの、 そして、もちろんサッカー場を駆け回る選手たちの華麗な動きと、テレビだからこそ見ることができる、肉迫した選手の表情など。
それを、目がみえない人たちにも楽しんでもらおう、というのが今回のプロジェクトだと思います。
さて、私がそのプロジェクトについて知ったのは、Tagesspiegelに、W杯中折り込まれていた"11 Freunde"の記事ででした。
これが、その内容です。(くり返しや、内容にあまり関係ないところは飛ばしています。誤訳があったらすみません〜)


『耳できく』

今回のワールドカップから初めて、盲人と視覚障害者のための公式プログラムが開始された。
ワールドカップスタジアムで、毎試合ごとに10人ののサッカーファンが、ヘッドフォンを通して、試合の情報を聞くことができるようになったのだ。
『私たちは、ブンデスリーガの最終階段のようにコメントするだけですよ。ただ、それが90分の長さなんです!』、と、レポーターは言う。

フランス対トーゴー戦。開戦の少し前、ケルンスタジアム。 無関心だった人にも、試合開始前のわくわくする気持ちが伝染してくる。
ブロック6最前列席に座っている、ヘッドフォンをつけた10人も、例外ではない。むしろ、他の観客たちよりも強烈に、ファンの歌声を、胸一杯に吸い込んでいたかもしれない。 彼等は、ケルンスタジアムで、最高の場所に設置された、視覚障害者と盲人のための席に座っている。
『本日は、ワールドカップの試合にようこそ』
と、試合開始、スタートキックの直前に、クリスティアン・カウツの声。 彼等にヘッドフォンと受信機を手渡した彼は、ヴォルフガング・ゴメルスバッハとともに 2列目の席から今日の試合のライブ中継を行うのである。
『私たちは、ブンデスリーガの最終階段のようにコメントするだけです。 ただ、それが90分の長さですけれど』
この2人の司会者は、無線マイクで装備を固め、大体15分置きに交代する。 この携帯送受信機は、今、大体のブンデスリーガのクラブが揃えているもので、価格は約1万5千ユーロ。 これが、盲人と視覚障害者のファンに、鏡で写したように詳細な解説を伝えることを、可能にするのだ。
イギリス対スウェーデン戦では、この方法で、向かいの西側の観客席に座っていた、VIPチケットを持っていた人にも解説を届けた。 この中継の形は、ラジオ・ルポと比較できる。 ただ、スタジアムの音の世界が、もっとすぐ近くで、もっと大きく迫ってくるのだ。
観客が鳴らすかん高い笛の音が鳴り響くと、 クリスティアン・カウツは、短く 『今、フランス側の選手がひとり、フランス側のコートに倒れています』 とコメント。 ヴォルフガング・ゴメルスバッハは、少し後で、ちょっと違う出来事に触れた。 『観客席でウェーブがスタートしました!今回は、反時計周り。 しかし、VIP席で途切れてしまいまいした。』
ラジオ放送局で働く人たちと違うのは、この2人のスペシャル・レポーターは、 多くのディテールで、より、詳細に迫っていること。
『ファビアン・バルテズが、ペナルティーエリアから、左足で球をたたき出しました』
と、こんな感じだ。 ゴメルスバッハは、ハーフタイムに哲学を語ってくれた。
『私たちは、非常に客観的に、何がピッチの上で行われているかを描写するのです。 私たちの目的は、聞く人が、この試合について、自分達自身の意見を成すことが できること。』
FIFAは、実のところ今回のワールドカップのためには、 この要望にかなうチケットの割り当てを考えてはいなかった。 しかし、ドイツのオーガナイズ委員会は全力を尽くし、 なおざりにされていた彼等への席を獲得したのである。 ワールドカップ開催前に、興味の有る人はホットラインに電話をかけ、 応募することができた。 抽選で決定。
この運動の後ろには、ブンデスリーガに、新たな基準を導入させた、 ハンブルク『Sehhunde』協会の存在があった。
(『Sehhunde』協会は、ハンブルクにある、盲人サッカーファンクラブ。現在40人あまりの会員がいるとか。)
ドイツで一番最初に、盲人のための観客席、を設置したのは、 バイヤー・レバークーゼン。 会長のクート・フォッセンが、チャンピオンリーグのマンチェスター・ユナイテッドとのアウェイ試合で、このプロジェクトを見つけた。 そして、すでに2006/07年のシーズンでは、18ある、ブンデスリーガのチームのうち、16チームが、観客席を設置している。
クリスティアン・カウツは、現在、自分のHPを製作中。 このHPから、ユーザーは、これらの観客席についての情報を知ることができる予定だ。
試合終了後、ヘッドフォンは回収され、試合中ずっとカウツのそばに座っていた目のみえない観客達は、サービスにお礼を言う。 カウツは、ケルンのスタジアムの状況を解説するだけではなく、 兄弟から、携帯メールを送ってもらい、このフランス対トーゴー戦と同時に行われていた、スイス対韓国戦の進行状況も常時伝えていた。
今日の観客たちはとても、専門知識があったよ、とゴメルスバッハ。 この2人は、スイス対ウクライナ戦の後、日常生活に戻る。 そして、FCケルンのチャンピオン試合から、再び、8人から13人の常連客のために このスタジアムにやってくる。


しかし、この実況中継、大変でしょうね! 私はドイツ語ですることを考えたら卒倒しそうです。日本語だって、目が状況を把握すると同時に、口が動いているようにすることを考えると、 こんがらがってしまいそう。

例えば:
現在、延長戦開始13分。
ディフェンスのフィリップ・ラームがボールを持って、イタリア側コート左サイドに上がってきました。
ガットゥーゾが駆け寄ってきました。競っています。
抜けない。
ラーム、ガットゥーゾに当てて、ボール外に出ました。
ドイツ側のスローイン
イタリア、カット、シュート!
バーにあたりました

・・・うわ〜。
口を動かしていないのに、文字で書いているだけで、とっても疲れます。
15分ごとの交代があるというのも納得。
なにかがある状況を、言葉であらわす、ということのいかに大変なことか。
語学学校に行っていたころ、よく、プリントに絵が描いてあって、それを文章にするという練習を行いました。 机の上に鉛筆立てがあって、その後ろに本が何冊。手前にコーヒーカップが・・・とかそういう文章です。 しかしこれだって、リアルに伝えるのはとても難しい。
動かないものですら大変なのですから、 ライブで、ものすごいスピードで動きあっている22人の人間を、スタジアムのピッチの位置まで含めて、言葉にするということの大変さは 想像してあまりあるものがあります。
うちには今、テレビがないので、見に行くことができなかった試合の中継は、ラジオで聞いていました。けっこうわかりやすく、さらっと流して聞きましたが、 良く考えたら、耳で聞いているのに、私は頭の中で画像として捕らえていたのだから、すごい!

テレビで言うと、ドイツのコメンテーターは、わりあい静か。ぽつりぽつり、と話す感じです。 今回のイタリア戦では、『統計的に見ても、ドイツはイタリアにいままでワールドカップで勝ったことはない。』
『PK戦ではイタリアは常にまける』とか、
臨場感に欠けるコメントが多かったですが、静かだと集中して観戦できるので良いなあ、というくらい。

しかし、この、ライブ中継、一度聞いてみたい! 目をつぶって、スタジアムのファンの歓声の渦の中に身をおいて、耳の中に響く情報だけをじっくり聞いてみたい。
そこで広がる試合は、いったいどんな感じなのでしょうか?

クリスティアン・カウツさんの、現在製作中のHPもアップしたらチェックしてみたいと思います!





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