今回は正統派に『口で食べる』です。前回の『口で食べ』たものは不味いと評判のフンボルト大学のメンザ。しかし、今回は、しみじみと美味しい、目を閉じて、じっくり味わいたい、正統派の“口で食べる”レポートです。
“die Eselin von A”というこのレストランの名前、意味は“Aのロバ”さてはて?
この名前の意味は何?と聞いてみると、最初のオーナーがよく休日を過ごしていた場所で、気に入った店があり、もう一度そこに行きたかったのだけれど、名前がわからず、頭文字がAで、側にロバが居たのだけは覚えていたので『Aのロバの所に行こうよ!』と言ったのが由来だとか、前のオーナーがロバを飼っていたからだとか、色々な説があるのだ、とのお答え。メニューにも名前の由来についての話が載っていました。
その名前にちなんで、インテリアのそこここにロバの頭像なんかも飾られています。料理にはさすがにロバは使われていないですが、メインはお肉たっぷり、オーストリアドイツ料理。オーストリア料理と言えば必ず名前があがる、薄〜くたたき伸ばした豚肉をトンカツのように揚げた、ウィンナーシュニッツェル等もメニューに並んでいます。

ゆるりと日が落ちるドイツの夏

しかし、ここに一月前くらいに入って来たばかりという若手のコックさんは『伝統的なオーストリア料理なんかもメニューに並べなければいけないけれど、後は自分の創作料理。毎週のように違うメニューを試しているよ!』と意気込みを語ってくれました。たしかに、その彼の言葉通り、毎週のように変わるメニューは彩り豊かで、味も、複雑なのに、さっぱり。素材の味が生かされている!と実感しながらも、プロの料理人が技を尽くした、自宅ではまねのできない細やかなハーブ使い、食感の違いの組み合せがお皿の上に広がっています。
私がここのお店で初めて食べた時に感激したのは久々に“美味しい魚”の料理を食べられたから。日本では、魚料理は毎日のように食卓にのぼります。回り中を海に囲まれた国ならではの、新鮮な魚を使って、シンプルに、焼いてレモン汁を絞っただけだったり、生のままワサビ醤油で食べたりする料理。ベルリンに来てから、そういった、さっぱりシンプル魚料理、というのを口にするのが非常に難しくなりました。まず、スーパーに魚コーナーがあまり無く、あっても薫製、生ではとても食べられなそうな充血した目をした魚が多い。魚を食べるぞ〜!と思うと、市場に行って北海から来る魚スタンドまで出向くことになる。外で魚料理を食べようと思うと、巨大な魚を揚げ蒸しにして、それにアーモンドスライスがかかった料理とかで、味が単純で、どうも最後まで食べられない。美味しい魚に出会うのはほぼ諦めていたベルリン生活でしたが、ここのレストランでやっと出会えたわけです。
例えば左写真は前菜のイワシのタルタル+チーズクリーム、かりかりトースト添え。こっちの青魚は塩漬けになっていることが多く、その塩気と生臭さが苦手だったのですが、これは肉厚で、もっちりした鰯の味わいにクリームチーズの酸味が効いて、いくらでも食べられそう。
右写真は白身魚をさっと焼いた(ドイツでは肉でも魚でも取りあえずとことん火をじっくり通すので、固く、ジューシーさが無くなっている事が多い・・。しかしココでは焼き加減が、火が通り過ぎず、柔らかく仕上がっていて最高!)ものにハーブ、アンズタケ、ポテトチップ/マッシュポテトが添えられているものですが、これが、この魚の柔らかい味わいが、口に含むとじゅわっと広がって美味しい事!これぞ魚の美味しさ。カリッホコッとなる自家製のポテトチップとマッシュポテトにソースと茸を絡めて食べ進んで行くと、もう箸(フォーク?)が止まりません。うま〜。


毎日のように入れかわるメイン。
後ろがラム、手前が白身の魚。
どちらも絶品。
白身魚はどれもここでは絶品。その秘密は火の通し加減と、一緒に添えてあるネギやトマト、茸といった、味と香りの強い添え物にある気がしました。
こ左写真では、トマトとネギが添えられている魚には、極薄のパイ生地のようなもので被われていて、この塩気とパリッとした感触が、魚の柔らかさを引き出しているようです。
ああうまい・・・・。じゅわ〜っと広がる旨味に思わず目が閉じてしまうのは何故なのでしょう。もちろん、お値段高めのレストランの例にもれず、ココでも綺麗にお皿に盛られてやってくる、この料理。もちろん目でも楽しめる料理なのです。でもやっぱり、目で楽しむというよりは、口の中で、カリッふわ〜じゅわーっ、という味わい方が最高。
そして、ここの店でさらにすごいのは、最後まで飽きないこと。日本人の通常1人前量よりはけっこう大きめの切り身、量が使われているはずなのですが、最初はそのままで、その後はソースに絡め、野菜と一緒に噛み締めて・・と最後まで、味が変わり続けるのです。あっ、もうお皿が空。
加えて、味がさっぱり系だということもあるのでしょうが、お腹は一杯になりますが、どーんと重たい感じは無いのです。

ほめ続けてしまったこのレストラン、もちろん、私が今までそれほど高級レストランで食事をしていないので、贅を尽くされた料理を目にし、口にして、ちょっと点が甘くなってしまったということもあるかもしれません。
しかし、デザートなら!特にアイスクリーム、ジェラート系は日本に居た時からかなり様々な店を試食し、舌を磨いてきました(?)。ベルリンでも私が食べに行きたい!と思う店は2店のみ。アイスには一家言あるといったところでしょうか。
このレストランでも迷わずアイス盛り合わせを注文。
さて。
お、美味しい!ミントシャーベットは、ミントの香りだけが清涼に口に残り、とってもさっぱり。汗がひくさわやかさ。ホワイトチョコレートは私の好みよりはちょっと重めですが、まさにホワイトチョコレートそのもの、という味で、とても滑らか。特筆モノなのが、ルバーブのジェラートです。ルバーブの青味がかった酸っぱさが、残っていて、まるでルバーブを今、畑から抜いて来てかじったかのよう。口福とは、こんなものなのではないか・・・等と考えてしまうくらい、最初から最後まで美味!な素晴らしい料理を味わえました。4皿のコースをとってワインを飲んで2人で100ユーロでこの味はかなりリーズナブル。・・といってもまあ、毎週いけるお値段ではないですが、口福はたまにあるのがまたヨシ。季節が変わったらまた食べに行きたいレストランです。

ホワイトチョコレート、ミント、
ルバーブの自家製ジェラート。


die

von "A"


----------------------------- guten Appetit! ------------------------------

die Eselin von A: U1 Spichernstr.----- Regensburgerstr.10 / Ecke Kulmbacher Str.15





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