マイセン。日本でも有名なドイツの高級手作り磁器のブランドであり、その磁器手工場がある街の名前でもあります。今回の食べるは、マイセン磁器にまつわる、美味しく無いお菓子、フンメルをみてみました。

マイセン磁器が発達したのは、ある横暴にも近い磁器狂いの王様のおかげ。その名もアウグスト強王といういかにも強そうな名前の彼は、ザクセン選帝侯とポーランドの国王を兼任した、かなりのやり手。ポーランドを治めるために、改宗したり、子どもが365人も居たり、あまり評判の良く無い王様ではありましたが、そうやって稼いだお金を惜しみ無く美術品収集と陶器開発へ注いだのですから、ある意味、美術への功績は非常に大きいと言えるでしょう。ツヴィンガー宮殿のコレクションもほとんどが彼の物ですし、ちょうど9月に再オープンしたばかりの宝物館、“緑の丸天井”は、彼の宝石や細工物のコレクションを中心に、歴代ザクセン国王の集めた財宝の展示で、その豪華絢爛さには目を奪われます。
さて、彼は東洋から伝わってくる陶器に心を奪われており、柿右衛門や伊万里、中国陶器、磁器等をほとんど病的に集めていました。そんな彼の野望は、自分の国でヨーロッパ初の磁器を作る事。錬金術師だったベトガーが、1708年、金の代わりに“白い黄金”、磁器を作り出したとき、アウグスト強王は狂喜しました。そして、その磁器製造の秘密を死守すべく、見晴しの良い小高い山の上にアルブレヒト城を立て、そこに職人を軟禁し、城門を厳しく監視しました。そして1713年、ライプツィッヒのメッセでこのマイセン磁器は大人気となりました。

奥にみえるのがマイセン、アルブレヒト城。
現在はここで磁器の製造は
行われていない。
秘密を守るのに最適だったのが分る
見晴しの良い地形だ。



ふっくりふくらんだ姿は美味しそう
でも、中身は空気。
さて、アウグスト強王はザクセン王としてドレスデンに滞在しなければならなかったので、家来をマイセンにやって、磁器工房の様子を伝えさせていました。しかし、その家来がマイセンに行くと、常に美味しいマイセンワインの誘惑に負け、ぐでんぐでんになって帰ってくる。強王がせっかく色々なことを聞こうにもまったく役に立たないのに困った王様が考えたのが、このお菓子、フンメルなのです!
この、壊れやすい繊細に膨らんだお菓子をマイセンで受け取り、それを壊さないようにドレスデンに持って帰る→酔っぱらっていては成し遂げられない命令→お酒を控えて帰ってくる。というわけ。
このお菓子は、皮だけで、カレーについてくる揚げたインドパン(プクーッと膨らんでて、熱々で出てくる、ナンに似た、あれ)のような構造。薄ーく、パリパリ、こんがりしている部分に粉砂糖がたっぷりかかっています。ココまで聞くと、おっ、美味しそう?と思うのですが、これが、お、美味しく無い・・・。
パン生地部分が味がなく、こげた味しかしないし、厚みのある部分は生っぽい。まあ、食べるためのお菓子として開発されたわけではないとしても、それから300年以上経っているのだから、もうちょっと味に工夫とか、して欲しいなあ・・。名物というと、つい、色々な味を期待しちゃったりするのは日本人特有なのでしょうか。しかし、美味しく無さも残すのがドイツの伝統ってこと?“名物に旨いもの無し”とはいえ、久々に口にした、本当にみた目のみの食べ物、でした。


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Meissener Fummel : マイセンのお菓子、パン屋にて



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