コンピュータの故障や引越し、電話線の不通で更新が遅れましたが、私は見たいもの、書きたいことで一杯です!その一つ、先日行った“みえないレストラン”について今回は書いてみようと思います。
“Unsicht-Bar” (みえない、という言葉とバーレストラン、という意味の掛け言葉)は2002年の9月にオープンした、真っ暗やみの中で五感をフルに駆使して料理を味わい尽くすというレストランです。この真っ暗闇は本当に漆黒の闇!普通の暗い場所、例えば電気のついていない部屋ならば、すこし時間がたってくると目が慣れてきて、ぼんやりと見えてくるようになるわけですが、それもまったく無しの、どこまでもどこまでも深く暗い闇に包まれた部屋に通され、そこで食事を食べるのです。
夕方、ちょっと薄暗くなってきたベルリン、ミッテ地区の静かな通りを歩いていくと、道に看板があり、そこから中庭に入っていくと入り口があります。
レストラン入り口を入ったところにあるレセプションには普通のレストランくらいの柔らかい光の電気がついていて、そこで予約を確かめた後、待ち合い室のようなところに通されます。この待ち合い室にはろうそくがともされ、ほの暗い感じで、入り口から入ってきてからじわじわとレストラン内の漆黒の闇のために準備がなされていくのを感じます。

待ち合い室でメニューが渡され(レストラン内では真っ暗で読めないので)野菜/魚/ラム/牛肉/アジア風 の五種類の 3〜4皿のコースを選びます。
このメニュー、“子牛肉のフィレ・きのこのホワイトソース”等というものとはまったく違います。例えば魚介メニューの場合
“春らしい装いのヤコブの魚介類”
“イタリアの水面で静かな、しかし賢い友だちと待ち合わせ”
“大きな火で暖められた肌から、彼はイタリアとフランスの色のコンビネーションを決めた”
“全ての食事の後に王様は40人の泥棒がハーモニー溢れる雰囲気を振りまきながらニュージーランド産のフルーツを食べているのを見かけた。”
といった感じです。いったい何がでてくるのか?まったく分からない状態で、とりあえずアジア風と、魚料理の3皿のコースメニューを選び、入り口へ。入り口には、盲人、もしくは視角障害者のスタッフ(上写真)がお客を待っています。
まずは『こんにちわ、私の名前はムスタファです。これから私と一緒に暗闇の中に入って、御飯を食べますが、楽しんで下さい。もし、恐くなったり気持ち悪くなったりするようでしたらすぐ呼んで下さい。携帯電話、電気のつく時計等は全てはずして下さい』と注意と自己紹介があります。
そして左手を左肩に置き、(手を取る形でも良いのですが、ここではレストラン内が細い廊下で仕切られていて動きにくいことと、片手が開いていると、人間は不安になりにくいなどの理由から
こういった方式が取られています。)レストランに通されます。

長い机のようなところに座り、まずは飲み物をもらいます。
『乾杯!』しようとするにもまずは相手はどこ???。暗闇の中で飲むアルコールはちょっとだけ回るのが早いとか。
そしてまずは前菜。大体お皿のまん中にもられたサラダ状のものなのがわかります。もやし、トマト、サラダ菜・・・どれも小さく、食べやすい大きさになっているみたいですが、フォークをざっくり刺そうとしても、野菜はするりと逃げてしまいます。フォークとスプーンを使ってなんとか捕まえて、口に入れるとフレッシュなトマトの味わいがじんわり〜!暗闇なんで、してもしなくても一緒なんですが、思わず目を閉じてじっくり味わいました。
魚を注文した友だちのサラダは肉厚の貝が入って美味しいというのでなんとか試そうとするのですが、どこに貝があるのか分からない!フォークでそこら中を刺して、やっとそれらしいものを見つけ、口に運びます。あっ、ソースがズボンに こぼれた・・・
こぼしたりしないように、ソースの固さには気を使っているとのことでしたがやっぱり、こぼしてしまいました・・。
ゆっくりと前菜を味わいつくすと、ウェイターさんがやってきて、どうでしたか?と聞かれます。次はいよいよメインディッシュ。
お皿がやってくると、ほわわわ〜〜〜〜〜〜と鼻先に暖かい、スパイシーな空気が感じられます。ちょっと酸味のあるなかにしょうゆの強い香りがし、コショウのちょっと煙ったような感じもあります。普段だと、盛り付けやら色合いの方に目が集中するのですが、ここではとにかく、鼻の感覚が敏感になっているのがわかります。私のメインディッシュは牛肉をパイナップルや数種類の果物、野菜とともに炒めたものに、香りをつけた御飯を添えたもの。私は普段は香りのついた御飯は好きでは無いのですが、ほんのりと甘い、香木のような香りは、とても素敵で食欲をそそられました。
友だちのメインディッシュは魚。
とりあえず、一口大になっているだろうとフォークを突き刺したら、けっこう大きな固まりだったようで、苦戦していましたがとろりとしたホワイトソースがよくからまった白身の魚は口に入れるとホロホロと崩れ、美味しかったです。ソースも、あまさず、パンを使って皿を拭うようにして味わいました。
このパンを使うテクニックは、海外ではけっこう有効。フォークもナイフも箸も、そんなにうまく使える方では無い私もパンを使えば、隅々まで美味しいソースを味わい、料理を残さず綺麗に食べることができますし、手を使うので簡単だけれどマナー違反ではないし、とっても良いです。もし、皆さんがこのレストランに来るようなことがあったらパンをうまく使うことをお勧めします。
そしてメインディッシュが終わったころに、デザートがでてきました。私のはひんやり冷たいショウガとチョコレートのパルフェ。まずは舌に冷たく、それからピリリとショウガの風味が来て、濃厚なチョコレートと混ざりあって複雑なハーモニーが舌の上に広がります。アイスクリームではなく、パルフェだったのも、固さ、食べやすさとしても満点。
友だちのものは、なにやらやわらかくぷるぷるしたものと、しっとりしたものが組み合わさったケーキ。フォークで食べて行こうとするととても巨大なモノのように感じられましたが実際はそれほど大きいものではないのだとか。みえない中では、想像力が働きます。

食事をじっくり味わった後、どうしても今、何を食べたのか知りたい!というお客さんには、種明かしもありますが、私達はあえて、サプライズはサプライズのままにとどめておくことにしました。
普段御飯を食べるよりも、舌の上に、いつまでもその素材の触感、柔らかさ、弾力、ソースの固さ、コショウの粒粒までが残っているようでいつまでも印象に残りました。今度、機会があったらアイマスクを使って自分でもやってみようかなと思いました。食後は暗闇の中のコンサートを堪能。こちらも、しっとりした空気の中でダイレクトに耳に伝わってくる音楽を楽しめて、とても面白かったです。
ちょっと頻繁に行くにはお値段が・・ですが、ぜひまた機会があったら行ってみたいレストランです。


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Unsicht-Bar : HP
Gormannstr. 14 地下鉄U8線 Weinmeinsterstr 駅 徒歩5分
       +49 (0) 24 34 25 00



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