べルリンのクリスマスマーケット第三弾は、テレビ塔の下アレクサンダ−広場で開催されているクリスマスマーケットです!
この市は、通り道にあるため一番よく通りがかるのですが、出店自体はあまり面白くなく、数も少ないのであまりじっくり回ったことはありません。 しかしここには、6種類のメルヘン・ジオラマが設置されていて、これは一見の価値あり!ちなみにこの市のジオラマは、どれもグリム童話の1シーン。 メルヘン、という言葉からイメージされるような甘い世界ではなく下からライトアップされた使い古しの人形達は、 角度によってはホラー映画のように恐ろし気。そして近寄るとどこからともなくひび割れた声が聞こえて来て、その舞台となった童話を語ってくれます。
『クリスマス市の一番若い訪問者達を素晴らしい童話の世界へと誘います・・・』等と宣伝していますが、 どう贔屓目に見ても、悪夢にうなされそうな作りにしかみえないのですが・・・
今回は、そのメルヒェン・ワールドに御招待です!

糸巻き車とイバラに囲まれた背景、
“イバラ姫(眠り姫)”でしょうか


小人がいると言う事は、多分“白雪姫”?

星が瞬く度に銀貨が・・“星の銀貨”

私がこの“メルヒェン・ワールド”を初めて見かけたのはライプツィッヒのクリスマス市ででした。
そこで見たのは“ラプンツェル”で、塔の上から長い髪の毛が垂れていて、塔の下にはレタスみたいな野菜畑があり、 うろ覚えだったこの童話の“ラプンツェルが閉じ込められていた塔の下にレタスが生えていた”という部分が蘇り、 その野菜畑を指差してドイツ人に尋ねたところ、“ラプンツェル”というのはドイツ語で“チシャ”(レタスに似た葉野菜)なのだと教えてもらい、 もう一度グリム童話を読み直すきっかけともなって、興味をひかれたのでした。 筋にまったく関係ないレタスの部分だけはっきりと記憶しているのが食い意地がはっているところですが・・・。

さて、“ラプンツェル”はともかく、ドイツの童話にはもともと恐ろし気な物が多く、こんな話を子どもにしたらおびえてしまうのでは?と常々思っていました。
例えば『シンデレラ』です。グリム兄弟のオリジナル版によると、有名な靴を試すシーンはこうなります。 『上のお姉さんは靴を持って小部屋に行き、試してみました。しかしつま先がどうしても入りません。靴は小さすぎたのです。 そこでお母さんはナイフを持って来てこう言いました。“つま先を切っておしまい。もしお前がお妃様になったらどうせ足で歩く必要などなくなるのだから” ・・中略・・王子様が花嫁の靴を見ると血だらけでした。そこで花嫁を家に連れ帰りました。』 同じ事が、下のお姉さんの場合はかかとが入りません・・・と続きます。 そしてシンデレラだけが無事に靴がぴったり合うのですが、血だらけの靴を思い浮かべると、全然 楽しく美しいハッピーエンドではありません。
同じく有名な“白雪姫”、このエンディングも『お妃様は最初は結婚式に出たくはありませんでした。 しかし若いお妃様を見たくて、いてもたってもたまらなくなりました。そして結婚式で白雪姫を人目見ると、不安と驚きで動けなくなってしまいました。 ・・中略・・お妃様は赤々と燃える靴を穿いて、倒れて死ぬまで踊らなくてはいけませんでした。』 ディズニー映画では悪いお妃様はたしか、毒を飲んで死ぬか、雷に打たれて死ぬかして、結婚式のシーンは平和で、悪者は居なくなって良かったね、と終わったのに、 この怨念渦巻く終わり方はなんなのでしょう。 基本は『悪い事をしたら罰が当たります』とか『良い人は最後は必ず助かります』といった紋切り型の考え方ですが、罰の当たり方がはんぱではありません。


蠅を“ひと叩き7匹”してそれを看板にし、
自分の勇敢さを誇示したら
その後巨人退治に行くはめに・・
“勇敢な仕立て屋”


“長靴をはいた猫”





同じくドイツのしつけ絵本“もじゃもじゃぺータ−”の話の中でも “指しゃぶりをしていたら、バタン!とドアが開いて大きなはさみを持った男がやってきて親指をジョキンと切り落とし・・”とか “スープが食べたくないカスパールは痩せ細って死んでしまいました”だとか、自分が子ども時代に聞いていたら絶対トラウマになったであろう話が絵入りで綴られています。
こんな恐ろしい話が多いドイツ童話をモチーフに作られたこれらのジオラマが無気味な外観なのはしかたないとも言えない事も無いかも知れません。
しかし、モチーフはともかく、人形の作り如何でかわいらしくすることは不可能ではないと思われます。 私が思うに、問題点はまず、人形が毎年使い回されているため(これらのジオラマは昨年も一昨年もありました)もう表面の塗装が剥げ、ほこりをかぶって、顔色が灰色にくすんでいること。 しかし目だけはぱちぱちと長いまつげでまばたきをして、それに下からのライトアップで恐怖感をそそる事。 それから、背景が適当な上(一番凝っているのが“星の銀貨”で、ツララ部分を皺々のアルミホイルで包み、手前の雪を綿で表現。 一番凝っていないのが“勇敢な仕立て屋”で窓が四角く塗られているだけ) 色がグレートーン、人形を作るとお金がかかるからか、ほとんどが1体のみが立体で後は立体的でなく平面で表現されている(“白雪姫”の小人は2人だけが立体で後は板描き)ことが、 安っぽさに拍車をかけている様です。 まあそんな安っぽさと恐さが、ベルリンっぽくて憎めないところでもあるのですが・・・。 クリスマス市を通りかかる子ども達も皆立ち止まって、真剣な顔をして眺めています。(決してニコニコと楽しんでいるふうではありませんが。)
しかし、今年はアレクサンダ−広場のこのジオラマ、災難に見回れました。 なんとクリスマスの定番モチーフ“厩で生まれた幼子イエス”のイエス様が盗まれてしまったのです! 未だに返却されていないようですがなんて罰当たりな事をする人がいるのでしょうか・・!!きっと幼いころに恐ろしいドイツ童話を聞かずに育った人がしたに違いありません。 グリム童話を子どもの時から熟読していたら、罪と罰の関係を頭に叩き込まれていて、恐くて悪い事などできるはずがないでしょうから・・・。

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Weihnachtsmarkt Alexanderplatz : U/S Alexanderplatz
Opening Time: (2003年冬現在)
24.11.-24.12.2003
Mo-S0: 10-20 Uhr

参考資料:Brueder Grimm Kinder und Hausmaerchen / REIHE RECLAM



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