Ackerstrasse



ベルリンは2005年末、大雪になった。さらさらのパウダースノーがしんしんと降り積もり、それは美しかった。 私は冬生まれだからか、雪が大好き。風が吹く度、砂漠みたいに。表面になめらかな縞模様を作る雪にみとれる。 東京の雪ってぼたぼたしてる感じで、風でふわーっと舞うような細かい雪は見た覚えがなかったから、ただ風が吹いても感動する。
そんな雪の中を、年末の買物のために出かけた時に通った道がAckerstr.。 スーパーマーケット砂漠のHackescher Markt駅周辺で、唯一、毎日新鮮な魚を仕入れ、野菜をずらりとそろえている大きなスーパー、 アッカー・ハレがあるので、ここはちょくちょく通る道なのだが、雪がふっていると、驚く程『東っぽい』。 ミッテ地区にあるこの道は旧東ベルリン側なのだが、普段は建築のギャラリーや、洒落たイタリアンレストラン、高級食材店、美容室、 レストラン、ワインショップなんかが軒を並べ、洗練された新しい東、の顔を見せている。 しかし雪にふりこめられ、ほとんど色を失ってモノトーンになっていることと、年末で店屋がほとんど閉まっているので閑散とした雰囲気で、 それが、『壁があった時代の東ベルリン』を感じさせたのだ。
写真を撮ろうとカメラをかまえたら、たまたま目の前に停まっていた車は東独製の車、トラバントだった・・。
普段は対して気にならなかったが、雪のせいで、ぼんやり白いふちどりになっている壁画も面白い。 ベルリンには、誰が描いたのかもわからない壁画がよくある。グラフィティみたいなものから、アーティストが描いた、例えば、近付いてくる爆撃機の影をビルの壁に描いたものなんかもある。 (Oranienburger Strasseのタヘレス横の壁。最初見た時はちょっとぎょっとした。) この道にあるのは、マレーヴィチの抽象画みたいな、ビルの色を生かした上に長方形がななめに組み合わされているだけのもの。 壁画じゃなくて、壁に残っている階段の跡や、広告のペンキ絵がはげたみたいな壁も、時々ものすごく味のある良い風景になってるのもみかける。
雪は、古本屋の、年代物の木の扉にもふりつもる。つたが絡まったもじゃもじゃのビル、Schokoladen(裏にシアターなんかもある)の枯れたツタにも雪が。 このビルの1階部分は、ピンクのバラが毒々しく描かれていたり、金色のデコレーションがほどこされていたり、キッチュな色合いなのだが、 ツタと雪のおかげでかなりやわらかい印象だ。
普段、雪が無い時には、さっさとスーパーまで歩き、気がむけばギャラリーを外から覗き、時々イタリア食材の店に足を踏み入れるだけなのに、 雪がふったら、今まで目にとまらなかったものがみえるようになってきた。
2006年、年があけてから通ってみると、雪は溶け、道中に大晦日のロケット花火の焦げたカスが通行人に踏み荒らされて、道はきたならしい色だった。 居並ぶビルは、雪によってワントーン落ちた色合いになっていたのが、ちょっと濃くなって、やっぱり『今のミッテ』っぽくて、なんというか、違う顔つきをしてた。
また雪がふったら、Ackerstr.を通ってみたい。


*通りのヒトカケラ*
古本屋のウィンドー。

ロシア語?のクリスマスカードと年賀状が
そっけなくぶらさがっているのが気になった。
今度入ってみようかな。





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