Dresdenerstrasse




ドレスデナー・シュトラーセは、バビロンというオリジナル字幕付の映画をよく上映する映画館があるのででかける通りだ。 日本ではわりと普通なオリジナル放映字幕付き映画。 字幕専用のフォントがあるくらいだから、日本ではやはり一般的なのだろうが、ドイツでは実は、これはかなり稀なことだったりする。 英語の映画なんかは英語があまりわからなくても、やっぱり俳優の声が聞きたかったりして見に行く。
映画を見に行くのはたいてい夕方から夜なので、この道を昼間に通った記憶が無い。 写真を撮ってみようかな、と思って昼間に立ち寄ったら、ビルに妙な魚のレリーフがついていたり (レリーフが壁にくっついていたり、壁画が描かれているビルはこの辺りにはけっこう多い) 公園があったりして驚いた。 とっぷりと暗く、カフェ等もロウソクの光だけのような所ばかり、という印象があったからだ。
映画帰りに寄る場所は、ヴルグエンゲル。 ブニュエル監督の不可思議な名作“皆殺しの天使”の名前を持つこの店、映画の後に立ち寄るにはぴったりだ。 もくもくと入口上に茂ったツタに覆われているこの店は、中に入ると黄ばんだシャンデリアのオレンジ色の光が暗い色の絨毯とソファに吸い込まれ、カフェというよりはバーな感じが漂う。 飲める人なら、ウィスキーやらワインやら頼むのが似合うだろうが、下戸の私は、ビターレモンかノンアルコールのカクテルを頼む。 カフェを頼まないのは、大人の仲間入り気分を味わいたいからかもしれない。 入口には、昔の写真が貼ってある。 この場所はミュージシャンやアーティストのたまり場としても知られているが、きっと西ベルリン時代からそうだったのだろう。 隣にレストランがあり、中でつながっているから、飲みだけでなく食いもできる。 映画ではないが、出て行く事ができなくなりそうだ。
この通りのあるクロイツベルクは外国人、特にトルコ人労働者が多い、マルチカルチャーな地域。 クーダム方面からクロイツベルクを走る地下鉄1番線は、西ベルリン時代はオリエント急行と呼ばれていたというが、確かに、プリンツシュトラーセ駅を過ぎた辺りから、客層ががらりと変わる。 特に、コッティと呼ばれるこの地区は、オラニエン通りを中心にトルコカフェ(トルコ人男性がカードゲームをし、煙草をふかしながらたむろしているカフェ)や トルコベーカリー(平ベったいトルコのパンや菓子をメインに売るパン屋。黒パンはない)インターネットカフェや安い国際電話の店、トルコ人の経営する八百屋、電器屋等がずらりと並び、 まさにリトルイスタンブール。イスタンブールには行った事ないけれど・・。
橋口譲二さんの本、ベルリン物語、の舞台はこの辺り。 西ベルリン時代の話はぜひ本を読んで頂きたいが、今でも変わらずドラッグの売人もうろうろしているし、ちょっと行けば、メーデーに放火されたスーパーがある。 そんな喧噪のすぐ裏なのにも関わらず、この道はなんだかしっとりと静かで、細いファサードを抜けるとぽっかりと違う空間がでてくるのが不思議だ。
ベルリン物語をめくっていたら、この道を撮影した写真がでてきた。今も、まったく変わらない。 パチリと写真を撮り、家に帰って白黒にしてみたら、それはまさに橋口さんの居たベルリンだった。 ドレスデナー・シュトラーセは時空を超えて存在する不思議な通りなのかもしれないと思った。


*通りのヒトカケラ*
Dresdenerstrasseのトルコカフェ看板
だめな感じがイイ








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