Planckstrasse



 春の初めに、ベルリン交通BVGに、乗車券にスタンプを押すのを忘れてつかまった (しかも1、2ユーロの近距離乗車で2駅乗るだけの所。悔しい)。 チケットを買ってそこに来ていた電車に慌てて飛び乗ったら、その瞬間に『コントローレ!ファーカルテン、ビッテ!』と検札さんが目の前に居た。 『私、あなたの目の前でチケット買ってたじゃないですか!』と弁解するがお目溢しはなく、40ユーロを払わされて以来、仕事以外では電車に極力乗らない。 代わりに、自転車でどこでもでかける。西はKaDeWe、東はFriedrichshainの裏手まで、自転車で。1時間くらいなら近く感じるようになった。 今まで、電車を使っていたのが信じられないほど。
さて、そんなわけで、うちから、フリードリッヒシュトラーセ方面に出る時によく通る道が、プランクシュトラーセだ。 プランク、というと、多分、理論物理学者のマックス・プランクさんから名付けられた通りだろう。 もう一本ある通りは、映画、『ゾフィー・ショル』でも有名になったショル兄妹の名前がついたショル兄妹通り。 広くて良い通りだが石畳で、私の愛用する旧東独製ぼろぼろ自転車で走ると、壊れんばかりに軋んで通れないのだ。
そんなわけで最近しょっちゅう通るこの道は、今、2006年8月5日現在、大工事中。 工事現場の青緑のネットの合間から見えるビルは、煉瓦色が美しいレリーフが施された由緒のありそうな建物だ。 しかし、戦火を浴び、そして多分、トラバントの出すものすごい排気ガスを浴び、雨風にさらされたそのレリーフは色を失って古ぼけている。
何の建物なんだろう?劇場かな?それともお役所か何かだったのかな?と通るたび考えていたが、ふと、思い当たった。 この道は、フリードリッヒシュトラーセから一本裏手に平行に走る道。 ということは、このビルの正面は、フリードリッヒシュトラーセ。 工事現場の向こうには、駅が見えるこの場所は、アドミラルスパラストの裏手じゃないか?と。
アドミラルスパラストというのは、来週、8月11日に『三文オペラ』で再オープンを迎える劇場。
もともとは、1911年にオープンした巨大な劇場(前身は、『アドミラルス・ガーデン浴場』だったらしい)。 アイス・レビュー(アイスダンスや、アイス・スケートのショーみたいなものだろうか?)、ボーリング、豪奢な浴場を兼ね備えていた。 20年代はレビューが行われ、着飾った紳士淑女が集まるような場所だったみたい。第三帝国時代は時の宣伝相であった、ヨーゼフ・ゲッペルスが関わってくる。 (最近調べもので彼のことを色々調べたり、日記まで読んだので、なんだか名前が出てくるだけで妙に親近感?を覚える) 彼は、カバレットなどのきらびやかなショーが行われていたこの場所を、懐古主義的な『華やかで、美しい、保養所』に変えてしまったのだという。 ナチの人たちがガーデン浴場でくつろいでいる様子が目に浮かぶが、実際どうだったのかは謎。
そして戦争が終わり、旧東独時代はオペレッタ劇場として・・。壁崩壊後はお客も減り、倒産。 97年以降は廃虚となっていた(私が来た頃は、ここを買って再建しようとした人が居たみたいで、一瞬開いていたような記憶があるが、またすぐ閉鎖となった。)
10年近くも放っておかれた建物は、無惨な状態。ここを再建するのは大変だろうなあ・・、文化財保護下にある場所だから、壊すわけにはいかない。 大変なお金をかけて修復してから再建しなければならないから当分廃虚かな・・と思っていたら、どうやらお金を出してくれる人がいて、劇場としてオープンできることになったようだ。
・・というのがこのアドミラルスパラスとにまつわるお話だ。しかし、今日は8月5日。オープンは11日。 間に合うのかなあ。まあ、裏手だから、直す必要はないのか?こっそり、開いていたドアから中を覗いてみると、中はもう少し頑張って直しているみたい。
こけら落としとなる『三文オペラ』は今年死後50年を迎える、ブレヒトの作品。 主役の、マッキー・メッサー(英語版だとマック・ザ・ナイフという名前になっているらしい!日本語では匕首マッキー。良い翻訳!)を パンクバンド『die Toten Hosen』のリードボーカル、カンピーノが演じるそうだ。 聞き取れなかったりして、十分に楽しめないこともある演劇だが、これは見に行く予定。とっても楽しみ。 これを見に行ったら、この建物が本当に、パラストの裏手なのかも判明するだろう。
外はぼろぼろで廃虚そのもの。でもドアを開けて中に入ってみると面白い空間が広がる。 そういう建物はベルリンの街のそこここにある。この道も、そんなひとつなのかな、と思った。


*通りのヒトカケラ*
向かいの建物にはヴァイオリン作りか
建物の壁には王冠のレリーフがあったり
こちらも面白い。

この建物には黒猫が飼われている。
暑い間はいつも外にお散歩へ。







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