ベルリンのアートメッセ、Artforum は 今年が10周年。 96年、壁崩壊と東西統一を経て、アーティストの街として世界中から注目を受けて居た時に始まったということですね。
2000年に初めて見た時の感想は上記のコンテンツにまとめてあるので書きませんが、最初の頃は多分まだ、 ドイツ最大のメッセである Art Cologneや、 バーゼル等の大きなメッセ (出店料が高いのはもちろんの事、お金を払っても選ばれたギャラリーしか出店できない)とは比べ物にならないということを逆手にとって、 若いベルリンのアーティストを多く出してみたり、パフォーマンスをやったり、色々自由にやっていたと思うのですが、 最近、微妙に落ち着いてしまったような、でも落ち着いて良い程のレベルに達していないと言うか、そんな未消化な印象を受けていました。 あくまでも私個人の感想ですが。そんなメッセも10周年。これからのベルリンのアートシーンはどうなっていくのか?という観点でも興味深いところです。
もちろんベルリンのギャラリーだけが出店してるわけでもベルリンのアーティストだけが出ているだけでもないですが、 世界に向けて『ベルリン・アート』をプレゼンテーションしている場なのですから、やっぱり、その動向は見て取れると思います。
今年は、メッセ会場で行われたアートフォーラム以外にも3つのオフ・メッセが同時開催(9月末日〜10月3日の統一記念日周辺まで。来年は10月頭だそう)。 昨年から始まった、Berliner Liste 、Kunstsalon、そして今年から始まったPreview。 どれも、出店料が安く、オルタナティブスペース等も出店できるとあって、かなりピンからキリまで。 去年のBerliner Listeは面白く無かったけれど、今年は海外からの小さなギャラリーの出店も沢山あるとのことで、色々覗いて、比較してみることにしました。 芸術の秋!アートメッセ三昧の1日です!
まずは、今年から始まったPreviewへ。会場は、バックファブリークという、旧工場跡地を改装した所で、 オフィスや、デザイン家具の店なんかが入っています。
ここでは、一度、アジア人アーティストを集めた展覧会が催されたこともあり、この中に展示できるようなスペースは知っていましたが、 35のギャラリーと10のプロジェクトルームが参加する程の広かったかな?他の場所も使うのかな?とちょっと期待して行ってみました。 しかし、スペース自体は1〜2階、+中2階のあまり広く無い場所にぎっしり、といった印象。

狭いスペースに、作品が色々並べられていて、作品自体を『鑑賞』するという雰囲気ではありません。 もちろんメッセというのは『鑑賞』するためではなく『買う』ためにあるので、しょうがないんですが、1ブースだけ、写真を展覧会のように見せている場所があり、 そこは見やすくて、目立っていました。展示が良いからか、写真自体も面白く感じられ、けっこう売れてもいました。
このPreviewメッセは5つのベルリンのギャラリーが主催となり、昨年好評だった、Berliner Listeの発展型として今年から始められたもの。 その5つのギャラリーの中にはプロジェクトルーム、loop、などのいわゆるコマーシャルギャラリーでないプロジェクトスペースも入っていて、 Artforumのような大きなお金が動く場としてではなく、若いアーティストとギャラリーが世界に出会う、プラットフォームのような役割を果たす存在、というのがコンセプト。
『プレビュー・ディナー』といってキュレーター、ギャラスト、コレクターを80人程招いての食事会を行い、コンタクトを深めてもらう等、色々考えているようです。
今回は、初めてということもあり、そこそこ評判は良く、入場者数9000人を数えました。
私は、特に目新しくは感じませんでしたが、スイスのギャラリーの出店が多かったので、 スイスのアート、ギャラリーってどんな感じなんだろう?というのを見られたのが良かったです。 ベルリンで好きなギャラリーの1つである、Abel Neue Kunstが出していた写真作品で気に入ったのがありました。
Previewメッセ。
ケルンのギャラリー、
Emmanuel Walderdorffのブース。
壁にも色を塗り、
小さな写真作品をきっちり見せる
工夫が感じられた


“Temporary Import”展より。
Jan Mancuska
“椅子を説明する800の方法”
椅子を壁の前に置いて、
銃で撃つ。
しかし、オフメッセを色々見るぞ〜!と意気込んでいたのですが、Previewをざっと見ただけでどっと疲れがでて、Berliner Listeはやっぱり行かないことに。 というのも、行った人達から『昨年に増して面白くない』『お金の無駄(5ユーロで?!)』等の手厳しい評判を聞いていただけでなく、 新聞等でも『醜悪』『不愉快な2年目』等と良いことが1つも書かれておらず、自分自身も、昨年の印象が悪かったので、 じゃ、ま、無理して行くことも無いか、と。
昨年は廃校になった学校で行われたBerliner Listeですが、今年は、昔ヴィトラ・デザイン・ミュージアムがあった、変電所跡地で行われました。 場所も、メッセに適していないとか、さんざん書かれていましたが、昨年の2倍の入場者数、1万人を数えたとのこと。
もう1つのKunstsalonの方は、Arenaという普段はコンサート、クラブにも使われる、広くてラフな会場でいかにもオフメッセらしく、ちょっと雰囲気が違ったそう。 出品されていた作品の多くが1万ユーロ以下というのもコレクターには人気があったよう。入場者数は昨年とあまり変わらない8000人。
何にしろ、私はオフメッセ2つに行く体力を、一番大きなメッセ、Artforumに回すことにして、メッセ会場に向かいました。
Artforumでは、一応、ベルリンの売れ線、を一堂に見られるし、 今回は“Temporary Import”という、 ここ10年間で、 daadの奨学金や Kuenstlerhaus ベタニエンでレジデンスを行っていた人等を集めて、 “Made in Berlin”をアピールする展覧会も行うということだったので、 今年は、それなりに面白いのではないか、と期待。 また、この展覧会にはベタニエンで今レジデンス中の、知り合いのチェコ人アーティスト、ヤノが出展しているというので、それも見たかった。 実は若いんだけれど(私と対して変わらない〜のにすごいな〜)ひげもじゃで、50代?と思ってしまう彼は、文字を使った作品が、 今年のベネツィア・ビエンナーレのチェコ館にも出品されていた 今、世界中でひっぱりだこの若手アーティスト。 ベルリンにほとんどいない彼の作品を、Made in Berlinと言えるのかはともかく、 いわゆる“売れるアート”的な感じではない彼の作品が、メッセ会場でどう見えるのかにも興味がありました。


ベルリンも西の果てにあるメッセ会場に到着。129のギャラリー、1500人のアーティストが参加しているというこのメッセ、他のオフメッセとは規模がまず違います。 オフメッセから直行した私は、オフメッセの会場が、狭いブースの中に、作品がごちゃごちゃと並べられ、作品として良い見せ方をしていないな〜という印象が始終付きまとい 残念に思いつつも、『でも、メッセって売るための場所だから、これで良いのかも?』と思っていたので、 Artforumのブースの多くが、 もちろん多くの作品を並べつつも、作品同士の間隔、高さなどちゃんと考えて並べてある風なのに、改めて、感心しました。 でも、良く考えたら、売りたいなら、作品を良く見せるように考えるのはギャラリーとして当然の事。 オフメッセの人達の展示方が悪いだけで、Artforumが良いわけではない?
まずは、“Temporary Import”展に足を運びました。ビデオ作品、写真作品、彫刻作品・・展覧会として、1つ、何かテーマがあるわけでは無いけれど、 今けっこう活躍している若手の人が多いので、これをまとめて見られるのは良いし、ベルリンにどんなアーティストが居て、どんなことをしていたのか分るのが面白い。
広々とした会場を白い壁で細かく仕切ってあり、作品と、アーティストの名前の下に、ギャラリーの名前も明記されていて、 やっぱりメッセは展覧会会場ではなくて、 アートを売る場所なんですよ、とアピールされている気がしましたし、ごちゃごちゃした中では、 いわゆる売れるアートな感じではないJanの作品等は目立たず、 見にくい印象はありました。
しかし、ベルリンのアートメッセは、クオリティとかでは勝負できないのだから、 あえて、“ベルリンでしかできないこと”をもっとしていくべきなんじゃないか、 と思っていたので、今回の展示のような方向性がもっと出て来ると良いなと思いました。

今回のアートメッセでも売れ筋、
ドイツ発で
世界で売れている絵画作品といえば
この人、Neo Rauch。
この作品も26万ユーロで
オランダのStedelijk Museumに
売れたそう。
彼は、今期から
ライプツィヒ美術大学教授に就任。

ギャラリーEigen & Artでの展示。
このギャラリーについては
  Spinnereiでも紹介しています。



絵の具が乾かぬうちに売れるという、
Norbert Biskyの絵画、“Rita”
写真とかで見ると、
おっと思うんだけれど
本物を見るとどうも響いてこない。
売る場なのだから売れる作品を並べるのは利にかなっているのだけれど、 売れるギャラリーはバーゼルやケルンでも出店してるのだから、 まずは人に興味を持ってもらい、ベルリン、のアートメッセにわざわざ来る理由がやっぱり欲しい。 だから、ベルリンで面白い注目の存在も紹介しつつ、ベルリンでしか出来ないことをもっとやって欲しいなあと。 見る方としては、 Artforum でも書いたような、 面白いイベントやパフォーマンスなんかがあった方が楽しくはあるんですが・・・。
メッセ自体は、可でも不可もなく。良いなあと思う作品があったり、名前でしか聞いたことの無かった作品を実際見れたり、 全然良いと思えない作品が売れてて、理不尽を感じたり。
でも、1996年から10年、Art Cologne以外の 新しい可能性として14のアートディーラーが集まって考えたアイディアが、大きくなり、ダメになったりもしつつ、 2003年には大手のスポンサーがキャンセルする等の問題も起こり、 それを乗り越えて新生Artforumとして頑張ろうという、 気分がピッとした感じがあり、それに好感を覚えました。
そして、それと比較して、オフメッセは、もっとオフらしさを追求して、 Artforumでは見られないベルリンらしさを出してほしい、と切実に思いました。 せっかく人が沢山来るようになって、“アートのメッカ”としてのベルリンが有名になりつつあるのに、 値段が安いメッセはやっぱり内容も安い、 と思われてしまうようでは残念。オフでしかできないめちゃくちゃパワーの展示とかも見たかったです。




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