ベルリンに来てから本格的な一人暮らしを始めました。先日引越をするまで住んでいたアパートの管理人さんは、一人暮らしの、胸の悪い、よく太ったおじいさん。訛がすごくて、話を聞いているだけで、ベルリンの香りが漂う人でした。 工具を沢山持っていて、なんでも自分で直してしまいます。そして、アパートの庭をこまめに手入れ。春には新しい花を植え、夏には刈り込み、草むしり・・・ 。昔、働いていた頃は、きっと仕事が終わったらビールをいつもの居酒屋で一杯、のんびり帰宅、黙々とパンとソーセージなんかを食べて、 TVでシュラーガー(ドイツの演歌みたいなもの)とか民謡の番組なんかを見て、10時くらいには寝ていたんじゃないかな・・と想像していました。
そのおじいさんのことをふっと思い出してしまったのが、この映画“Schultze gets the blues”。 旧東独時代、ドレスデンとカール=マルクス=シュタッドの劇場で25年俳優をやっていた、Horst Krause 演じる主人公、シュルツェのなんとも言えない、おじさんの哀愁が最高でした! もう、この映画は彼の笑顔とポテポテした動き、そしてドイツなお腹(!)無くしては語れない!といっても過言ではないでしょう。 ちなみにこのHorst Krause、“Halbe Treppe”のアンドレアス・ドレーゼン監督の映画でも好演。 ロードムービー"Wir koennen auch anders"ではドイツ映画賞を受賞しています。 この映画をみたMichael Schorr 監督が、10年前に“Schultze gets the blues”のアイディアを考えついた時から、主役はこの人しかいない!と思っていたといいます。
『このシュルツェ には僕自身の部分がかなり入っているよ。』とは、Horstの弁。 『シュルツェは、彼のすること、彼の身に起こる事、全てを楽しんでいる。これは僕も同じ。僕も彼も享楽主義者なんだよ。』
そして、監督、Michael Schorr はこの映画で本格的な映画デビューを果たしました。 そしてなんとベネツィアビエンナーレでは“Lost in Translation”のソフィア・コッポラ監督を抑えての監督賞を受賞。 その後も数々の国際的な映画賞で受賞を続けています。
ドイツのおじちゃん、シュルツェがこれだけ世界で受けるとはまさか監督も考えていなかったようです。

さて、シュルツェ。シュルツェはザクセン=アンハルト州(Teutschenthalというところだそう)の鉱山で働き、帰りは同僚のユルゲン(Harald Warmbrunn)とマンフレッド(Karl-Fred Mueller)と一緒にいつもの居酒屋でビールを一杯。休みの日には庭の手入れ。地区の民謡ブラスバンドにアコーディオン弾きとして所属し、毎年あるフェスティバルでは伝統的なポルカを弾いて・・・という何も変わらない毎日を過ごしていました。
そして彼等3名は鉱山を退職することになり、シュルツェは暇な時間、庭を手入れしたり、夏用にテラスを作ってみたり、3人でチェスの会に出てみたり、ぼんやりと日々を過ごしています。
そんなある日、ふとラジオをつけた彼の耳にブルースのメロディーが飛び込んできます。そのメロディーが耳について離れなくなってしまった彼は、さっそくアコーディオンでそのメロディーを試し弾き。何度も、何度も、繰返し、繰返し、そのメロディーが、彼の心を虜に。
憧れのテキサス!しかし手配されていたホテルは“エーデルワイス・イン”というスイス調の山小屋ホテル、出演予定のフェスティバルではヨーデルやポルカ等が演奏されるばかり。
すっかり失望した彼は、荷物をまとめ、川に放置されていたぼろぼろの船を直し、ブルースを探す旅に出たのでした・・・。

いかにもドイツ人的な小さな笑いがそこら中にちりばめられ、また、彼がテキサスに行った後の
つたない英語(というかサンキューだけ)と、帽子をちょこっと持ち上げて挨拶する様子が、なんとも愛らしく、またその所々ですれ違っていく人たちがとても魅力的。アメリカで行われたドイツ民謡フェスティバルや、ダンスホールなんかのシーンはほとんど実際に行われた所を撮ったらしく、そういったディティールも楽しめます。(しかしアメリカでドイツ民謡のフェスティバル・・・皆、お馴染みの皮の半ズボンを着用してて、コテコテでした。)最後のほろ苦い終わりまで、二時間、シュルツェと一緒に旅を楽しみました。

*映画の中でちょこちょこ出てくるドイツ〜な料理や、シュルツェが作る“アメリカ料理”、ジャンバラヤなんかのレシピも見つかる、この映画のHP、お勧めです!



Schultze gets the blues: 公式HP



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